シキヨクの蔓延る家

3/5
前へ
/5ページ
次へ
 その向こうにいたのは1人の少女と大柄の男だった。男は少女の頬を思いっきり平手でぶっている状態だった。男の額からは角のようなものが伸び、髪は逆立っていた。辺りには一升瓶が散らばり、中には割れて中身が畳にしみ込んでいる箇所もあった。  少女は頬から血を流し、綺麗な白色の着物に赤い花を咲かせていた。それに帯が幾重にも分岐し天井から吊るされているような異様な光景を生み出していた。  僕は直観で彼女を救わなければと思った。常人であれば今、起きている現実離れした光景に絶句し、恐怖心が支配するかもしれないが僕はその感覚がかなりずれているらしい。  一目ぼれというのだろうか、彼女の美しい青い瞳、一点の曇りのない綺麗に整った白い髪、その美しさは月夜に照らされより一層映えてみえた。  胸の鼓動が早くなる。今までに感じたことがないほど脈は速くなり、全身の血流が早くなり身体は熱を帯びた。  大柄の男はこちらに気づいている様子はなく、酒を浴びるように飲み続けている。その時、少女の目線が僕を捉え、その途端脳内にあの声が響いた。  「タスケテ……タスケテ……」  僕はその声を聞いた瞬間、頭の中で何かが爆ぜる音がした気がした。そこからの記憶は朧気であまりよく覚えていない。気づけば夜が明け畳の上に伏せている姿があった。手には白く綺麗な着物を着た人形を強く握りしめて。  その姿はどこか夢の中で視た少女の姿と重なる部分があった。  その日は仕事が手につかず、ぼうっとしている時間が多かった気がする。上司からは危ないから今日は帰れと言われ、午後休を取得する羽目になった。今まで男子校出身で女子経験もない僕が昨日初めてみた美しい霊に恋をした。あれは夢だったのではと思いながらも妙にリアルな感覚が脳内に焼き付いて離れない。このもやもやする気持ちを解消するには告白するしかない。彼女はびっくりするかもしれないけど抑えきれない。気づいたら無意識に指輪を購入していた。まだ早すぎるかもしれないが後悔先に立たず、ここで何もしなければ何も進展はしない。色々考えながら、ふらふらしながら帰っているとすっかり辺りは暗くなり白亜荘は一層存在感を増していた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加