最後は最後になる

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 卒業式では泣くものだ、と?  はっ。お笑いだ。  それで、本日は中学校の卒業式の日だった。  俺、今日は卒業生。まあ形の上では中学生最後の日ってやつで、ホントは三月終わりまでは在校生らしいが、詳しいことは知らねえ――。  まあ、そんなことはどうでもよくて、卒業式で泣くことはないぜって意気込んで、俺は登校した。  校舎に入り、目の前を心の友の坂本が歩いていた。 「よおっ!」  俺は後ろから坂本の背中をポンと軽く叩いた。  ああ。こいつとこういう朝の挨拶も今日で最後か。進学先の高校は別々だしな。  そう思うと、寂しい波が胸の中から目に到達しようとするのを俺は感じた。  おっと。いかん。今日は絶対に泣かないぞって決めているのだ。 「今日はめでたい卒業式の日だな。なあ、坂本君。天気も良い」  俺は努めて明るい気分を盛り上げた。 「ああ……」  ところが、坂本は気乗りしないといった様子で、俺の方を見もせずにため息を漏らした。 「どうしたよ? 坂本の大将。大丈夫だって。俺たちの進学先は決まっている。義務教育で落第しちゃいましたなんて、ないから」 「はあ。そうだな……」  またため息。  俺の話に無関心だ。一体何に気を取られているのか?  俺は口を小さく開いた。 「どうしたよ?」  簡単に聞くのが一番なのだ。  「冬木……」 「ん?」 「冬木さおり」  クラスメートの名前だった。冬木さおりに恋心を寄せてる野郎は多かった。  それで俺は「あ」と思った。 「お前も、冬木さおりのこと好きだった?」 「ははは」  坂本は薄く笑った。 「そうだよ。俺の冬木さおりへの恋心。それは、親友のお前にも気づかれなかった中学三年間の気持ちだ」 「全然気づかなかったぜ。だってお前のタイプって、コスプレイヤーのきなこじゃん――」 「それは趣味だ。敵をだますにはまず味方から」 「いやいや。敵って誰だよ?」 「冬木さおりに恋をする者たちだ。恋のライバルってやつ。しかし、そこに俺がいると、みんな中学三年間がつまらないものになるだろ? 勝てやしない。何の期待を持てない三年間ってつらいよ。な?」 「な? じゃねえよ。お前と同じ奴を好きにならなくてよかった……」  裏から何をされるかわかったもんじゃねえ。うーん、しかし、冬木さおりはモテるのに、告白されたなんて噂は一度も聞かなかったな。おい、まさか……。  俺は何気なく坂本の顔を眺めた。ニヤリと笑いやがった。こ、こいつ。恋のライバルになりそうなやつを、まさか裏から蹴落とし……? 「ひっ」 「なんだよ、人の顔見て、鳥肌浮かべるような顔しやがって」 「気のせいだ。うん」 「? まあ、俺の話を聞いてくれる?」 「今日は大事な中学最後の日だぞ。時間を使う価値、あるよな?」 「おおあり」 「聞こう」
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