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卒業式が始まるまで時間があった。俺たちは並んで屋上に出た。三月も中旬とはいえ、外はまだまだ冬の空気だ。学生服の首筋に冷たさを感じた。でも、空にある朝日は、顔に心地よい暖かさを注いでくれた。
気持ちいー!
そう叫びたくなる朝の雰囲気であった。
「それで、話なんだが……」
心の友は真冬の顔だ。
「今日で中学も最後だ」
「そうだな」
「冬木さおりに告白するベストな日だとは思わないか?」
「はあ?」
俺は首を傾げた。
「まあ聞け。俺はこの日を待っていた。卒業式という中学最後の日。明日からはみんな登校することはなくなるんだから。明日はないんだ。追い詰められた今日こそ、冬木に告白できる! なあ! そう思わないか!? なあ――!」
俺は坂本に両肩を掴まれ、ガクガクと前後に体を揺さぶられた。
「お、お前、ちょっと待て!」
俺は坂本の額に手を当てた。
「熱はないようだな」
「当たり前だ。俺は今日、冬木に告白するために学校に来たのだ」
「今日が卒業式ってわかってる?」
「そんなことは二の次だ」
「そうですか」
正直に言うと、俺は坂本に対してあきれ返っていた。中学三年間、冬木さおりへの気持ちを誰からも感づかれないように隠し続け、中学最後の卒業式の日に告白だ?
俺はおどけた手の動きをして言った。
「無理」
坂本はきょとんとした。
「え?」
「無理無理。お前はすでに終わってる」
「何が終わりだ?」
「中学最後の日に冬木へ告白だ? 何かを先送りにして最後にしようってのは、まあ、たいていは失敗に終わるものだ。そこにチャンスなどないので」
「がーん!」
俺という心の友からの言葉だ。それに対して怒ることは一切ない。
坂本は寂しそうに俺を見た。
「当たって砕けろの精神でもか?」
これに返事するのはつらいよなあ。まあ、これからだ。うれし泣きか、悔し涙か、坂本はどちらかの涙を流す必要があるのだ。
心の友のために、俺も覚悟を決めた。
「はあ。今日の卒業式で泣くことはないと誓って学校に来たんだがなあ。それはナシとしよう。行くぞ、心の友よ」
これはもう、こう思うしかなかった。
「卒業式が始まる前に、冬木へ告白だ。イエスか、ノーか。まあイエスの返事をもらえることを願うよ。何にせよ、卒業式で泣こうじゃないか」
「ノーでも一緒に泣いてくれるか?」
「言わずもがな」
俺たちはがっちりと握手を交わした。
で、結局は、坂本から告白された冬木さおりの返事は――。
「すごい。卒業式という記念日に、生まれて初めて告白された。うれしいわ。坂本君、最高の一日を、ありがとう!」
それだけで終わってしまったのだ。
イエスでもノーでもない。ただ感謝されただけ。
本日卒業式の冬木さおりは、卒業おめでとうの気持ちが感極まってしまっていて、坂本からの恋心が自覚できなかったのだ。
こうなるんじゃないか。
やっぱりこうなった。
この展開は俺の予想通りだったワケよ。せめて、昨日までに告白しとけば結果は?
坂本は無表情の顔で言った。
「泣くに泣けないわ」
すまん。しかし俺は心の中で笑ってしまった。
坂本はめげずに言った。
「次は一七歳という黄金の年齢で彼女を見つけようじゃないか! 高校は違えども、協力してくれるよな?」
「あ? ああ」
次回も笑わせてくれそうだった。
まあ今回が最後の失恋になればいいよな。
<終わり>
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