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自分の愛した“彼”
自分を追ってきた者たちに、“彼”らしい雰囲気など感じなかった。
あの者たちは一人違うこと無く無表情で、何の意志も全く感じられない。
そして自分の名を呼んだ“あの彼”。
あれほどまでに自分を心配してくれていた彼が、何事もなかったかのように笑みを浮かべているのは違和感以外に無い。
巨人は自分を全く離そうとはせず、今も相変わらず身体を撫で回すばかり。
もしこの中に本当に自分の愛おしい彼がいるのだとすれば……
彼女は確信する。
恐らく間違いはない。
“彼”は自分とともにと願った、唯一のかけがえのない相手なのだから……
レオナは巨人に向き直った。
「……本当に、貴方はこんな時でなければきっと立派な役者になれたかもしれないのに」
レオナは自らが今にも奪われそうなところだというのに、妙に落ち着いた気持ちでそう言った。
巨人は自らの手に収めた彼女をそっと胸に抱き、ようやく口を開く。
『っ、レオナ……。ともにいてくれるなら私はもう、役者の夢などいらない。これは私の心の姿だ、成りばかりの弱い人間……。このままでは自分を偽るための奴の命令からも逃れることは出来ない。この姿から救い出してくれるか、私を……』
巨人から聞こえたのは、間違いなく愛おしい彼の言葉だと思った。
そして彼といる安心感とともに涙がこぼれ落ち、レオナは巨大な彼の手に優しく口付けた。
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