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見知らぬ部屋、覚えのない男
彼女が目を覚ましたその部屋は暗く、灯りは部屋に点った小さな蝋燭のみだった。
仕切られたカーテンの隙間からは細い月の光が差し込む。
目だけを動かして見てみれば、自分の身体は見慣れぬベッドの上。
「……。」
身体はだるく頭の中はボンヤリとしており、自分が何者なのかすら思い出すことが出来ない。
混乱していて身体はうまく動かず、喉は相当乾いているらしい。
この家にいるであろう誰かに呼び掛けようとしても、声はかすれて自身の耳にかろうじて届く程度だった。
突然、部屋の戸が開く音。
そっとそちらに顔を向けると、この部屋に誰かが入ってきたことが分かる。
しかし廊下の灯りを背にしているため、顔はこの部屋の暗さで見えない。
そうこうしている間にその相手は、ゆっくりと彼女の寝ているベッドのすぐそばへ。
そしてその誰かはそっと彼女の頬に触れた。
彼女は思わず身震いする。
「……起きたのかね?」
上から降ってきたのは、顔はよく見えないが初老らしい男の声。
「ここ、は……」
相手になんとか返した彼女の声は、本当に自分のものかと疑うほどに嗄れていた。
「ああ、喉が」
男は低い声で呟き近くの水差しから小さなコップに水を注ぐと、自らの口に水を含む。
そしてそのまま彼女に口付け、水を移した。
彼女は反射的に水を飲み込みはしたが、それは異性との口付けには違いない。
「っ嫌……!」
彼女は少し出るようになった声で拒み顔を背けた。
「水は足りるのかい、レオナ。足りないはずだろう?身体もまだ動かないのだから、もう少しだけ飲むんだ」
男の言葉から自分のものらしい名を耳にし、思わず彼女は動きを止める。
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