ネコちゃんだあれ?

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 あぁー、やった! ついに川村さんを誘っちゃった!  それにしたって、俺、すげえ食い気味だったし必死過ぎて下手くそかよ。ああやだやだ、川村さんがいい人で良かったわ。待ち合わせするからって言ってどうにか自然に(?)連絡先も交換してもらえたし、俺がんばったよな?  ああ、そう、川村さんっていうのはバイト先の猫カフェの常連であり俺の推し客で……ああほんとあの人なんなの? いや、ぱっと見は普通の人なんだけどさ。いやもう可愛い過ぎだろ⁉︎すっごく幸せそうな声で「ネコちゃん可愛いね〜」なんて言っているけれど、めちゃくちゃ無防備にとろんと緩んだ顔したあんたのほうが可愛くてほんとヤバいんだけど!?  なんていうか、なんて言えばいいんだろう。いや、はっきり言おう、エロいんだよ!  そもそも猫たちは人間の気持ちなんて関係なく自由に行動する生き物だから、絶対に裏切られない安心感があるんだよな。そんな絶対の信頼をおける相手に対してだけ見せるような、川村さんのあんなとろんとしたエロい表情が目に焼き付いて離れない。  そうやって悶々と過ごしていた頃、駅前でばったり会ったときにはもう絶対このチャンスは逃したらダメだって身体が勝手に動いてた。いや、チャンスって何だよって感じだけどさ。このときはまだ、確かにただお気に入りのお客さんと仲良くなれたら嬉しいなって思ってただけのはずだった。  だけど今になって思い返せばそのときにはもう、俺にもあんな表情向けて笑ってほしい、なんなら俺がそうさせたい、なんて心のどこかで思っていたんだろうな。  さすがに目が合えば会釈ぐらいはしてくれるから、俺自身のことはさすがに認識してくれるはず、なんてここぞとばかりに食い気味に話しかけたらちょっとびっくりされたけど、なんならそれすら可愛いんだよな……なんて。ちょっと距離の取り方に戸惑っている様子ではあったけど、少なくとも俺の好感度は低いわけではないだろう。このときばかりは自分の末っ子気質に感謝しながら、これで顔見知りから友人に格上された気になって。それからはあの人に会うたびネコちゃんをダシに彼の隣をキープし続けた。  その甲斐あって、最初は不思議そうにしていた彼も、最近は俺の顔を見ればスッと隣をあけてくれるし、かなり大胆に気を許してくれるようになってきたのがもうキュンキュン可愛くてたまらなくて。彼がドリンクを飲む口元すらも気付けば目で追っている自分がいるし、無意識に彼に触れようとする手が伸びかけてはっとする。  俺……今、何した? なんて気付いてしまえば全身がカッと熱くなる。ただのエロ可愛いお気に入りのお客さん、ただそれだけの関係なのに。あの人は俺と同じ男で、しかも年上の大人だってわかっているはずなのに、どうしても沸き出てくる欲求が止まらない。 「にゃぁん」 「わぁー、マリーちゃん! 君の方から膝に乗ってくれるなんて嬉しいなぁ、ふふっ可愛い」  くそ、猫め、普段は塩対応なのにこういうときだけ擦り寄ってきやがって……いや、嘘です猫様マリー様、俺を正気に戻してくれてありがとうございます。ついでにうらやまけしからんのでちょっとそこ、代わってくれませんかね?  はぁ……、俺、そろそろ本当にやばいかも。  あの人が、欲しい。
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