理解不能な男

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 ピリリリリ……と聞き慣れた電子音が部屋に響き渡る。それを、ほぼ無意識で止め、冷たくなった手足を布団の中で擦り合わせるところから、知花 陸(ちばな りく)の一日がはじまる。  少し意識が覚醒したところで、よっこらしょと重い体を持ち上げ、瞼を擦りながら、ニット生地のパジャマから制服へと着替える。  ワイシャツを着る前に、薄手の発熱インナーを着て、毛糸の腹巻きを身につける。やや大きめのワイシャツのボタンを閉めた後、本日は仕方なくネクタイを締める。  ズボンを履き、靴下は二枚重ねで履く。  ブレザーを羽織れば着替えは完了である。  ちなみに、季節は桜がちらちらと舞う4月上旬。だが、寒がりの陸にはこれくらい着込むくらいでちょうどいい。  2階の自分の部屋から1階の洗面所へと移動する。歯を磨き、耳上まで伸びる真っ黒な髪のピョコンと跳ねた部分に、水をつければ、身支度は完了である。  念のため最終確認で、鏡に映る見慣れた自分の姿をじっと見つめる。  ギョロッとした横にも縦にも大きい真っ黒な瞳、スッと通った鼻、薄く小さい唇に、血色のない真っ白な肌。  我ながら何度見ても作り物のように冷たく、人間らしさを感じない顔だ。ずっと見ていると気分が悪くなりそうで、陸はさっと目を逸らし、徒歩10分ほどの高山(たかやま)高校へと向かう。  一歩外へ出ると、暖かな春の風に包まれる。  陸は今日、高山高校の3年生へと進級する。  まぁ、だからといって晴れやかな気持ちなどは特にない。  目の前には限界までスカートを短くした、2人の女子高生がわいわいと楽しそうにはしゃいでいる。  膝上15センチ以上であろう、短すぎるスカート丈を見ていると、なんだか自分の足までスースーするような感じがする。  あんなに足を出して外に出るなんて、冷え性&低体温の陸には100%無理である。なんだかんだ女子はさまざまな面で男子よりも強いなと、そんなどうでもいいことを考えていると、あっという間に目的地へとたどり着いた。  校門をくぐると、すでに校庭には人だかりができていた。  ため息をこぼしつつも、陸は自分のクラスを確認するため、仕方なく人だかりへと足を進める。  なるべく巻き込まれないよう、最後列から思いっきりつま先立ちをする。  こういう時、163cmの己の身長が恨めしくなる。  足をつりかけながらも、なんとか新しいクラスを確認すると、陸は重い足取りで教室へと向かった。
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