理解不能な男

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 新学期がはじまってから1週間。  前の席の男、辰巳朝陽は、あっという間にクラスの人気者となった。  休み時間には陸の前に男女問わず、辰巳を中心とした集団ができるようになった。  陸はというと、着実に去年と同じカーストに定着しようとしていた。  授業の際など、必要最低限のコミュニケーションは取るが、休み時間に話しかけてくる人はいない。理想通りの状況だった。  陸の周りに誰も集まらないおかげで、辰巳の席の周りが混雑しても渋滞することはない。  役に立てたようで何よりである。  たまに、机に衝突される被害はうけるが、問題ない。  陸は話すのは苦手だが、別に人のことが嫌いなわけではない。ガヤガヤと楽しそうな会話が聞こえてくるのは、むしろ心地よかった。  勉強や恋愛の話題、最近流行りのテレビなど、色んな話が聞こえてくるので、友達がいない陸でも色んな情報を仕入れることができる。  前のクラスでは、みな口を開けば、先生や友人、恋人、家族の悪口が話題に上がっていたのに、不思議と辰巳の後ろの席になってからはそういった話は聞こえてこなかった。  辰巳の明るい雰囲気が、そういったネガティブな話題を遠ざけているのだろうか。  いや、まぁ、実際は、みな、まだ自分の腹の内を明かしていないのだろう。  それでも、束の間だとしても、自分には関係ない話題をBGMに、机に突っ伏してうとうとする休み時間は、とても心地がよかった。  密かに恩恵を受けることが多いなと、陸はまた、話したこともない辰巳へ感謝を感じた。  
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