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 団地って、わたしあんまり好きじゃない。  同じ外観の建物がいくつも並んでいる様子は、なんか“無個性”ってかんじだし、何百人もの人が同じ屋根の下で暮らしているって、なんか、なんていうんだろう……。 「一人くらいいなくなっても、誰も気が付かないんじゃないかな」  ああ、そうだ。  いつだったっけ、歩がそんなことを言っていた。  わたし、あの言葉を聞いたとき、「あ、確かに」って思ったんだ。  誰も気づかないなんて、そんなことはあるはずない、なんて頭ではわかってる。万が一  家族に気づかれなかったとしても、わたしたちのような学生には学校という砦があるし、無断で欠席したら家に連絡がいくだろう。連絡がつかなければ先生が出張ってきて、きっとそこで失踪したことが発覚する。  でも、色んな人間がごちゃっと一つにまとめられた場所に住んでいると、不思議と「自分は大勢いるうちの一人でしかないんだ」って気持ちになって――そして、なんだか無性に悲しくなってくる。  世の中にはこんなに大勢人がいるんだから、自分一人くらいどうこうなったって何も変わらない、って。  こんなことばかり考えているから、世界が灰色に見えちゃうのだろうか? 「吉野さん。君に耳寄りな情報があるよ」  翌日の、朝八時。  燃えるゴミの日だったので、寝ぼけ眼の部屋着姿でゴミ捨て場にゴミ袋を放り投げ、家に戻って目玉焼きでも作ろうかね、半熟のやつ、とか思っていると、いまわしい声に呼び止められた。 「うわ、出た」 「出たとはなんだよ、出たとは。人を幽霊みたいに」 「幽霊みたいなもんでしょ。このバカ暑いのにそんな格好しちゃってさ」  わたしを呼び止めたのは、隣のクラスの辻くんだった。  小柄な背と、ぼさぼさのねこっ毛、夏なのに長袖の黒いパーカーをきっちり着込んでいる。そのくせ下はハーフズボンを履いていて、ひょろりと伸びる足は生白くて不健康そうだ。  彼は、A棟に住む歩と、C棟に住むわたしのちょうど中間、B棟の三〇三号室に住んでいて、こういう風にたまに出くわすと声をかけてくる。  学校じゃ全然言葉を発しないくせに、団地の敷地内にいる時の辻くんは、水を得た魚のように妙にはきはきと喋るのだ。  こういう人のことを、内弁慶っていうんだっけ? 「朝イチに出会いたくない人物ナンバーワンだね、辻くんって」 「なにそれ、なんで?」 「なんか、空気がどんよりしてるっていうか」  わたしの言葉に、辻くんはむっとした顔をしたが、正直ぜんぜん怖くない。 「いいのかなー、そんなこと言って」 「なに、まだ何かあるの? ていうか辻くん、それ、燃えるゴミの日に出しちゃだめだよ。シャツは資源ゴミだよ」 「えっ、そうなの? ありがとう」  指摘すると、辻くんは片手に持っていたゴミ袋の中から律儀に白いシャツ(だいぶよれよれなようだけど)を取り出した。  こういうところは素直でいいヤツなのに。 「それで」 「え?」 「まだわたしに用があるんじゃないの?」 「あ、ああ! うん、もちろんだよ」  ゴミ袋をゴミ捨て場に投げ入れ、鳥よけのカバーをきちんとかけてから、えっへん、となぜか偉そうな態度で辻くんは言った。 「……の、前に。あのさ、吉野さんって、佐伯さんと仲良いよね?」 「え? 奈々? まあ……うん、仲は良いけど。それが何?」 「れ、」  ごほん、と不自然な咳払い。 「連絡先を、知りたくて……」 「はあ!? ……念のため訊くけど、それってわたしの?」 「違う! 佐伯さんの!」  すぐさま否定する辻くんに、わたしはちょっと(ていうかかなり)むっとした。だから、そのむかつきを隠さず「ああそう、頑張ってね」と言い残し、その場を去ろうとした。 「ちょっと、待ってよ!」  しかし、案の定引き留められる。 「……なに。奈々の連絡先が知りたいなら、本人にそう言えばいいじゃん」 「い、言えるわけないだろ!」 「なんで?」 「そ……っれは、だって……僕みたいなのに、急に声かけられても、迷惑かもしれないし……」 「よくわかってんじゃん」  ぎろり、とまた冷たい視線が飛んでくる。でもそんなのどこ吹く風だ。わたしは間違ったことを言っていないんだから。 「辻くん、奈々のこと好きなの?」 「す、」 「わかる、わかるよお、奈々って美人だもんね、ウン」  そう言うと、みるみるうちに辻くんの顔が赤く染まってゆく。  黒くて長い髪に白い肌、大きな目に、びっしりと生える濃い睫毛。手足はすらりと長くて、そのくせ華奢な肩。見る人を思わずぎょっとさせるような、そんなちょっと抜きんでた美貌を、奈々は持っている。制服を着ていないと、中学生にはとてもじゃないが見えないくらいだ。  でも、あんまりにも容姿が整いすぎているせいか、はたまた勝気な性格のせいか、奈々に関して同級生との浮いた話は存外聞かない。その反面、近所の大学生に熱烈にアプローチされているとか、遠距離恋愛している彼氏がいて、お互い18になったら結婚する約束をしているとか……。そういう、誰かが面白がってたてたであろう、事実無根な噂をたまに耳にする。  わたしは結構ずけずけと踏み込んじゃうタイプだから、そういう噂を聞いた日には奈々に直接真相を聞いてしまう。  対して奈々はいつも、心底むかっとした顔で、 「ないない、全然ない。てか、何? そのやっすい恋愛ドラマみたいな話」  と、言うのだった。  綺麗な顔を歪めて、心の底から心外そうにする奈々がおかしくて、わたしは毎回声に出して笑ってしまう。わたしが笑うと、奈々は「なに笑ってんのよ、もーっ!」と怒りながらもつられて笑う。それがわたしたちの、お決まりのやりとりだ。 「び、美人だからとかじゃなくて、そりゃ確かにすごく可愛いなとは思うけど……」  もごもごと、要領を得ない喋り方をする辻くん。そうこうしている間にも、太陽は燦々と輝き続け、容赦なくわたしたちを照り付ける。  ああ、暑い……。  じっとりと背中に汗が伝うのを感じて、わたしはもういてもたってもいられなくなり、「とにかく、」とちょっと乱暴に話を遮った。 「奈々の連絡先が知りたいなら、正々堂々本人に訊きなよ。これはべつに辻くんだから教えないとかじゃなくて、誰に対してもそう言うよ、わたし」 「う……っ」 「じゃーね!」  はやくクーラーがきいた涼しい部屋に戻ろう。これ以上ここにいたらゆでだこになっちゃう。  そんなこと思いながら、さっさとその場を立ち去ろうとすると、意外にも意外、再び引き留められた。 「す、須藤歩の居場所を、僕が知っていたとしても!?」  ちょっと聞き捨てならない一言によって。      振り向いたわたしの顔がよっぽど怖かったのか、はたまた「言ってはいけないことを言ってしまった」と思ったのか、そのどちらかはわからないけど、とにかく辻くんは結果として、「ひっ」と短い悲鳴をあげたのち、ぴゃっとその場を駆けだした。それはもう、脱兎のごとく。 「あっ、ちょっと!」  追いかけようとして、自分がぶかぶかのサンダルを引っかけていることを思い出し、わたしはイライラしながら「こらっ待て、辻!」と叫んだ。でももう遅い。辻くんの姿は見えない。  ゴミ出しをしにきた、A棟のおばあちゃんがわたしをじろじろと怪訝そうに見つめてくる。いや、おばあちゃんだけじゃない。ハッとして顔をあげると、なんだなんだとベランダから顔を出す団地の住人と目が合った。わたしはなんだか恥ずかしくなって、サンダルを引きずりながら速足で家に戻った。  バタンッ、と乱暴に扉を閉めると、音にびっくりしたのか、仕事が休みでまだ眠っていたパパがのそのそと起きてきて、「なんだ、朝から騒がしいなあ」とのんびりした口調で言った。 「あ、ご、ごめんなさい」 「いや、まあ、いいよ。それより純、朝ごはん食べたか?」 「……ううん、まだ」 「よし、じゃあ作ってやろう。ちょっと待ってなさい」  ふあーぁ、とあくびをひとつ。パパはいつも眠そうで、ちょっと疲れた顔をしている。旅行会社の代理店で店長をしていて、夏の時期は特に忙しいみたいだ。  パパは顔を洗ってからのろのろと台所に立ち、冷蔵庫を開けて中身を確認しだした。わたしは台所と繋がっているリビングの椅子に腰かけて、ふぅ、と気持ちを落ち着かせるように熱い息を吐いた。  胸が、ドキドキいっている。さっきの、辻くんの言葉のせいだ。  歩の居場所を、知ってる? 辻くんが? どうして?  いや、そんなことより、居場所を知っている、ということは……そして辻くんの言っていることが本当ならば、少なくとも歩は無事だ、ということになる。 「純。ピザと、マヨコーンと、イチゴジャムと、マーマレード、どれがいい?」 「え……うーん、わたし、マーガリンがいい」 「安上がりな娘だなあ」  ははは、と呑気にパパは笑う。 「そうだ、歩くんのことだけど」 「え。なに?」  タイムリーな話題に、思わずドキンとしながらわたしは顔を上げた。  じゅうじゅう、パチパチ、と卵の焼ける音が耳に心地よく響く。 「純、実は居場所知っているんじゃないのか?」  パパの口調は穏やかだった。探ろうとしてるとか、そんなかんじじゃなくて、ただ事実を確かめようとしているだけってかんじの。  背中しか見えないからどんな顔をしているのかはわからないけど、でも多分口調と同じように穏やかな顔をしていると思う。 「……なんでそう思うの?」 「仲が良かったし。それに……なんとなくだけど、」  パパは言った。 「純も歩くんも、お互いがお互いのことを“しょうがないやつ”って思っていただろう、多分。二人して、“こいつは危なっかしいから、自分がちゃんと見ていてやらないと”って」 「な、なにそれ? そうかな?」 「そうだよ。少なくともパパにはそう見えたよ」  ははは、とまたしても笑い声。 「だから、もしかして歩くんは、純にだけは居場所を教えているんじゃないかって、そう思ったんだけど……違う?」  パパの言葉に、ズキン、と胸が痛くなる。  わたしだってそう思ってた。  もしどこか遠くへ行くのなら、姿を消そうとしているのなら。他の誰にも言わなかったとしても、わたしにだけは何か言ってくれるんじゃないかって―― 「わたし……知らないの」  わたしは言った。 「ほんとうに、なに一つ、知らないの。……でも、歩は無事みたい。なんか、ワケを知ってるっぽいヤツを一人、見つけたから」 「そう」 「……ねえ、今わたしが言ったこと、ママや他の大人には内緒にしていてくれない?」 「うーん」  お皿に目玉焼きを移したり、トースターからパンを取り出したりしながら、パパはちょっと唸るような声を出した。 「本当は、常識のある大人なら然るべき人たちに報告をしなくちゃいけないんだけど……パパは常識の無いワルだからね」  その言葉に、わたしはホッとした。 「でも、危ない目に遭っているのなら話は別だよ。彼が安全な場所に居るっていう確証はとれているの?」 「ううん……どこかにいるらしいってことくらいしか、わかんない」 「うーん」  どんより。わたしたちの間に、重たい空気が流れる。 「……ひとまず、朝ごはんにしようか!」  パパのその言葉に頷いて、わたしは朝ごはんに手をつけた。  さくさくのトーストにマーガリンを塗ると、ふんわり良い匂いが漂う。  窓の外で、思い出したかのように鳴き始める蝉の声を聞きながらわたしは、今頃歩もどこかで朝ごはんを食べているのだろうか、と思った。  そうすると、どうしてだか心細いような気持ちになった。      辻くん宅のチャイムを鳴らしても、うんともすんとも言わない。居留守かと思って扉を叩こうとしたが、何回か見かけたことのある辻くんのお父さんが、かなり神経質そうな顔をしていたことを思い出して、寸前で思いとどまった。 「あいつめ、絶対とっ捕まえて事情を聞いてやる」  わたしは、年季の入った深緑色の扉を睨みつけながらそう呟き、階段を下りて三階を後にした。  B棟から出て、なんとなく後ろを振り向き、コンクリートでできたクリーム色の壁を見上げる。向かって左手にA棟、右手にC棟が建っている。    なんにも変わらない、ただの集合住宅。  同じような顔ぶれがいつも行きかう、小さな世界。    小さい頃は、この狭い団地の敷地内が世界の全てだとすら思っていた。自分の背丈の何十倍もある高い建物に、公園や、神社や、集会場もあって、敷地内を一周するだけでくたくたになったものだ。  それが、今ではすっかり背も伸びて、この狭い団地を、時折窮屈に感じるようになった。  E棟に住んでいた五つ上のお兄さんは、高校卒業を機に家を出て一人暮らしをはじめたらしい。いつの日か、歩がつまんなそうな顔でわたしにそう教えてくれた。  わたしと同じC棟の、一階に住んでいたお姉さんは、結婚して旦那さんの実家の近くに越していった。出くわすたびに優しく声をかけてくれたお姉さんに、わたしは結構懐いていたから、いなくなると聞いた時は、置いて行かれてしまう気がしてすごく嫌だった。  でも、わたしもいつか、ここを出る日がくる。  外へ出て、広い世界を知ったら、こんなに狭い世界で暮らしていた時のことなんて、忘れてしまうだろうか?  なんだかこの頃は、意味もなくそういうことばかりを考えてしまう。 「みぃーつけた」  声をかけると、辛気臭い黒い背中は大袈裟に肩を揺らして振り向いた。 「よ……吉野さん」 「どこ行くの? わたしも着いていっていい?」  にこにこと、嘘の笑顔を貼りつけながらそう訊くと、辻くんはあからさまに嫌そうな顔をした。  辻くんが行きそうな場所とか、考えそうなことなんて大体わかる。歩とほどじゃないが、同じ団地でずっと一緒に育ってきたんだから。  辻くんは団地内にある、熊野座神社という小さな神社の境内に隠れていたようで、そろりそろりと出てきたところをすかさず捕まえて声をかけた。  狭い境内に、大きなけやきがでんとそびえるこの神社は外から見て死角が多いので、かくれんぼの時の定番の隠れ場所だ。今でもたまに、近所の小学生たちが身をひそめてくすくす笑っているのを見かける。 「い、いや、暑いし、もう帰ろうかなーって」 「ふーん。じゃ、帰る前に訊きたいことがあるんだけど」 「……須藤くんのことなら、勘弁してっ」  この通り! 辻くんは深々と頭を下げて、わたしにそう言った。その拍子に、パーカーのフードがもさもさした髪を覆うように下がってくる。 「勘弁してってなに? 先に吹っ掛けてきたのはそっちでしょ?」 「そ、そうだけど、よく考えたらやっぱり、言うべきじゃないって思ったっていうか……」 「……もしかして、歩に口止めされてるの?」  そう訊くと、辻くんはわかりやすく動揺した顔をした。 「そうなんでしょ。ねえ、辻くん」 「う……ぼ、僕は、」 「正直に白状しなさい!」  じりじりと歩み寄る。すっかり高く昇ったお日様が容赦なく照り付けてものすごく暑いし、わんわん鳴く蝉の声はうるさいし、辻くんははっきりしないし……。なんだかイライラしてきた。 「……た、たまたま見かけただけなんだ」  やがて辻くんは、観念したように口を開いた。蝉の声にき消されちゃいそうなほどか細い声で。 「見かけたって、いつ、どこで?」 「……一昨日、青佐池の近くで。派手な奴らと一緒だった。たぶん、あの近くの大学の奴らだと思う」  それは、わたしにとってまったくもって予想外の言葉だった。  青佐池、というのは、ここから少し離れたところにある、麻溝運動公園という広い公園内にある池だ。  木製の、古いけれど立派な船着き場があるような、そこそこ大きな池で、小さな頃にはパパやママとスワンボートに乗りに行ったこともある。 「そこで、歩はなにをしていたの?」 「わかんない。でも、大学生たちは楽しそうだったし、少なくとも無理やり連れられているようには見えなかった」 「……なにそれ」  歩は、いったいどうして、そんなことを――? 「そ、それで僕、思い切って声をかけたんだ。須藤くんっ、って。力みすぎて、声が裏返っちゃって、そうしたら須藤くんはびっくりした顔で振り向いて、大学生たちは僕をばかにしたようにげらげら笑った」  ぎゅ、と拳を握りしめてうつむく辻くん。 「須藤くんは慌てて僕に駆け寄ってきて“見なかったことにしてほしい”って言ったんだ。言うだけ言うと、やっぱり慌てて戻っていった」 「……それで、辻くんは今日まで誰にも言わずに黙っていたの? あんたに、歩に対して、そんなことしてあげる義理がある?」 「だって、」  よわよわしい声。 「だって、見なかったことにするのって、僕、得意だから」 「……はあ?」 「……とにかく、僕はもう話したよ。これでいいでしょっ」  一転、いつもの内弁慶っぷりをぞんぶんに発揮した態度で、辻くんは言った。開き直ったといってもいいだろう。  なんだか、情報量が多すぎて、頭痛がしてきた。  辻くんの話が本当なら、警察に通報した方がいいだろう。――でも、歩はそれを望んでいなくて――でもでも、万が一脅されていたりしたら? ――家族や友達に助けを求めたらタダじゃおかないぞ、ってあらかじめ釘をさされていて――だから歩は辻くんに対して慌てた顔をしていたんじゃ―― 「……吉野さん、これからどうするつもり?」 「どうするもこうするも、」  色々と考えだしたらキリがない。 「……とにかく、一回行ってみる」 「え、行くって、」 「辻くんが、歩を見かけたって場所に」  行ったところで何にもならないかもしれないけど、ここでじっとしているよりマシだ。  どうやら、迷ったら即行動! のママから生まれたわたしにも、その性分は受け継がれているらしい。 「そっか……気を付けてね」 「ちょっと! あんたも行くの!」 「えっ!?」 「奈々に、あんたが奈々のことを好きってバラしてもいいの?」  そう言うと、辻くんはサッと顔を青くさせた。 「卑怯者!」 「歩の情報を材料に、好きな子の連絡先を聞き出そうとするような、姑息な奴に言われたくない!」 「うっ……それを言われると、自責の念が……」  辻くんは、胸をおさえて、ジセキノネン、とかいうやつに顔を歪めさせた。  二年生の夏休みも、もう半ば。  宿題はぜんぜん終わっていないし、夏らしい思い出の一つも作っていないのに、妖怪みたいに真っ黒い服を着こんだ辻くんと行動を共にすることになるなんて。 「……なにもかも全部、歩のせいじゃない」  わたしのその呟きは、蝉の鳴き声に紛れて消えた。
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