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「最近お肉の値段が高くて、ジャガイモやニンジンの多いカレーになったんだけど。あまりとろみもなくってサラサラしすぎてるかしら」
アリアンナは出来栄えに満足していないようだが、久しぶりに嗅ぐ香辛料の香りは十分に食欲を刺激してくれた。肉よりジャガイモが多いところも、祖母が作ってくれたカレーが思い出されて本田は懐かしさを感じた。
「おいしいよ。日本で子どもの頃に食べたのを思い出す」
「よかったわ! 喜んでもらえて」
「この香りと辛さがたまらないないぁ。すきっ腹で飲んでたからどんどん食えそうだ。ライスのおかわり頼むよ!」
沈痛な表情でヴォトカをあおっていたセルゲイも、カレーの味で気分が和んだようだ。
食事をとるときは殆ど一人という日々を過ごしていた本田にとっても、家族と離れて以来、二か月ぶりの団欒の場だった。心を許せる友人が誰も身近にいない中で、コンドラチェンコ兄妹との間に芽生えた交流を大事にしていきたい。その思いから本田は自身の身の上を語り始めた。
「そう、僕は南クリル生まれの祖母に育てられたんだ。故郷に帰りたいって言葉を聞かされながらね」
「南クリルか…。ウクライナ生まれの俺たちにとっても他人事じゃないなぁ。べゾブラゾフのせいで、まさにクリミアが同じ目に遭ったわけだからな。奴はキエフの政権と交渉しようなんて気はまったくないから、この領土問題はこれから長く尾を引きそうだ」
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