第一章・青い瞳の女

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「しかし、なぜべゾブラゾフは日本には北方領土で譲歩する姿勢を見せる一方で、ウクライナについては、頑ななんだ? 本音を言えば、クリミアから手を引いたほうが欧米の経済制裁解除に道が開けるんじゃないのか? 」 「それがこの国のイカレちまってるところさ。こと欧米に弱気な姿勢を見せたら世論が黙っちゃいない。ベゾブラソフがいくら介入しても支持率はガタ落ちになるだろう。ソビエトの偉大さを取り戻せ、と国民を煽るだけ煽ってナショナリズムに火をつけてきたのはベゾブラゾフ本人だ。奴としては、引き返したくても引き返せないところまで、この国は来てるってことだよ」    強権支配とは言いつつも、世論の支持がなくては政権維持がままならない。確かにロシアは、かつてのソ連とは異なる「民主主義国家」なのだ。ただし、その民主主義は強権、あるいは独裁を求める民意に支えられたものだ。   権威主義国家は、しばしば領土・領海の拡大に走り、その成果は民族の自尊心をくすぐる。独裁者による迅速な意思決定は、無駄を省き、経済効率の良さを追及する。ロシアの人々は今まさに、この「異形の民主主義」の魅力に引きこまれている。ロシアに限ったことではない。日本をはじめ世界各所にも見られることだ。自尊心をくすぐられ、目先の利益に左右される民衆が、強権的で他者の批判に聞く耳を持たない不寛容なリーダーをどれだけ選び出していることか…。  
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