第一章・青い瞳の女

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 怒りに震えて顔を紅潮させる者。感極まって滂沱の涙をこぼす者。酒のせいか或いはドラッグでもやっているのか、焦点の定まらない目つきでヘラヘラ笑いながら奇声を発する者などなど。  若者たちの表情はさまざまだが、共通するのは現状に対する強烈な不満だ。そのエネルギーがマグマのように高温を発し、吹き出し口を求めて激しく蠢いているさまを本田は目の当りにした。 (ここでなら、大きな仕事ができそうだ。やはり、単身でも来た甲斐はあったな)  二〇一七年四月。日本の三大新聞社の一角を占める東日(とうにち)新聞の特派員として妻を故国に残し、モスクワに単身赴任して十日余り。本田一馬は、最初の取材現場に選んだアナトリー・ビルデルリングの政治集会の熱気に触れて気分を高揚させていた。 「きみは日本人の記者か? どうだい、アニーの演説と聴衆の盛り上がりぶりは。これがロシアの民衆が真に求めている政治家だよ! いつまでも『ベゾ』の時代が続くわけじゃない。国民の懐に手を突っ込んで、盗みを働くような連中は退場すべきなんだ。なあ、そう思わないか!?」
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