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しかし、この国で徒党を組み、こんなことを大声で口走ってただで済むとは思えない。本田は並んで歩く男にささやきかけた。
「昔からこの国では、民衆が徒党を組むと、皇帝が騎兵隊を差し向けて蹴散らしにかかるというのが映画ではおなじみのようだけど…」
ケビン・コスナーはますます楽しそうな表情で本田に顔を向けた。
「うん、そろそろ馬の嘶きか、蹄の音が聞こえてこないか耳をすましてるんだ。周りの連中がうるさくて困るんだけどさ」
ジョークのつもりだろうか? 緊張で本田は笑えなかった。
「やっぱり、クレムリンにたどり着く前に『騎兵隊』は現われるんだろう、かね? 」
心持ち、自分の声に震えが来ているのを本田は感じた。
「そうだね。この先のマネージナヤ広場あたりに阻止線が張られているだろうな。
それと、きみ、レインコートは持ってないの? 防弾チョッキは必要なくても、モスクワのデモでは必需品だぜ」
男がそうつぶやいた矢先、モスクワ市庁舎前の横合いの道から高圧放水車が現われた。思ったよりもクレムリンのずっと手前に阻止線は張られていたようだ。
水だと思って高を括って顔面に食らうと失明もしかねないと、以前機動隊を取材したときに聞かされていた。車両の天井に据えられた放水銃がこちらを向いたところで、本田は頭を手で防護しながら顔を伏せた。
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