第一章・青い瞳の女

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 「このあたりは、テレメテフ通りと言ってね。かつてあのシドニー・ライリーの隠れ家もあったところだ。シドニー・ライリーは知っているかい?」  シドニー・ライリーは、ロシア革命で誕生したばかりのボルシェビキ政権を転覆させようとしたイギリス秘密情報部の伝説的なスパイである。ウクライナ生まれのユダヤ人で、ジェームズ・ボンドのモデルの一人とも言われている。  「女にもててギャンブルにも強くて、ボルシェビキに捕まっても処刑されるまで信念を曲げなかった。僕の憧れの人さ。それにあやかりたくて僕もここに住むことにしたんだ。  おっと申し遅れたね、僕の名前はセルゲイ・コンドラチェンコ。フリーのジャーナリストだ。今は主に『アニー』の活動を追っている。きみの名前は? 」 「カズマ・ホンダ…」 「カズマか。一緒に逃げ回ったからきみには親しみを感じるよ。それにそんな濡れネズミじゃ風邪をひく。お近づきの印にわが家で着替えていってくれ。僕は妹と二人暮らしでね。多分、この時間、妹も帰ってるから世話を焼いてくれるだろう」  アメリカ人のように陽気で溌剌としたセルゲイの態度に本田は、警戒心を抱かずそのまま自宅のアパルトマンを訪ねた。 「ただいま! すまないけどお風呂の用意を頼むよ。お客さんがズブ濡れなんだ」 「いらっしゃいませ。あら? 中国の方? 」
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