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「あちゃぁ、してやられたなあ。ほんでムカつくわそのクソ詐欺師」
昔、電話口で愚痴も聴いてもらっていた時のように、しっかり受け止めてくれる。
「景子も結構汚い言葉も使うのね」
「おっと、父ちゃんに怒られるわ」
「そうだな」
「父ちゃん!?」
景子の背後で、白い着物と青い袴を着た男性が腕組みしている。
「星奈さん、でしたね。何かつらいことがあったらこちらにいらっしゃってください。景子が喜びますから」
「ウチ、そんな子供やないで?」
巫女は頬を膨らます。神主さんは気にせず言葉を続ける。
「星奈さん。神はいつも見守っておられます。ただ、それだけのこと。あとはあなた次第ですよ」
その言葉を胸に刻む。見上げると、都会の濁った夜空に一つ、明るい星が出ていた。その星をじっと見つめる。
「星奈、あの星は何?」
景子に聞かれたが、私にもすぐには分からず首を振る。今の時期の子の方角にあんな明るい星は覚えがない。
「『景星』かもしれませんな」
神主さんは神妙な面持ちで答える。
「『景星』?」
「めでたいことの前触れとして現れる星のことです。きっと、星奈さんにいいことが起こりますよ。オカルトめいたことは信じないかもしれませんが、人は心の持ちようでどうにもなりますから」
「またなんかあったら相談しいや。ウチがいつでも受け止めるで」
そんな話をしていると、遠くからパトカーのサイレンが鳴る。その音はだんだんと近づき、やがて神社の近くのアパートに止まる。
「何かあったんかな?」
興味本位で覗いてみると、アパートの一室から一人の男が警察官に連れ出されていた。
「俺は何もやってないからな! この女の事も知らないし」
あの顔、声は忘れることはない。いつか探し出してやろうと思っていたが、手間が省けた。
「神はホントにいるかもしれんな」
夜空の雲が晴れていき、輝く星が一つ、また一つと増えていった。
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