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その日の夜、いつものように電車に乗り、帰路に着く。最寄り駅で降りた後、ふと空を見上げると、暗く濁った空があった。街明かりに照らされて灰色の模様が広がる。
「田舎にでも行って、星を眺めて過ごしたいな」
幼いころから星が好きで大学では天文学を専攻したほど。ただ、数学が苦手だった私は修士課程に進むことを諦め、学習塾に就職。就職先は完全に外れだったが。
空から目線を地上に戻すと神社が目に入る。三年も行き来していたのにこれまで気づいていなかった。
「ちょっと行ってみるか」
鳥居をくぐり、社の前に立つ。賽銭箱に五円を投げ入れ、手を合わせる。そして、『今の仕事を辞めて、星を眺めて生きていけるようになりたい』と心の中で願う。
「まあ、神なんて信じてないけどね」
それから近くのコンビニでチューハイを購入し、マンションに戻る。暗い部屋の明かりをつけ、レジ袋を玄関にある台に放り投げる。
「今日もいらついたわ」
洗面所に向かいクレンジングを含ませたコットンで肌をなでる。この作業も本当に面倒くさい。
浴槽にお湯もたまり、いつものようにスマホを持って入浴。この時間が至福の時だ。
防水ケースに入れたスマホで電話をかける。
『お、また愚痴かね、星奈ちゃん』
「またって。いつも私が愚痴しか言わんみたいじゃん」
『この時間に電話かけてくる時はいつも愚痴やろ?』
景子は大学時代からの友人で、何かあると景子に電話していた。つらいことがあったとき、楽しいことがあったとき、失恋した時。
『今日も聴いてあげるから。話してみい』
いつまで話していたのか、記憶にない。
『机の上をしっかり見なさい』
その声が聞こえた時、日の光が顔に当たる。
「お、もうこんな時間ね」
今日は休みだからこの時間に起きても別に問題はない。でも、洗濯や掃除、しないといけないことは多い。昨日、玄関に置いたままのチューハイは生ぬるくなっていた。昨日は多分、夜中の二時まで長電話していた。お風呂から上がった後そのまま寝ていてため、髪はパサパサ。常温になったチューハイを冷蔵庫に放り込んだ後、軽くシャワーを浴びる。
髪を乾かした後、机に放り投げていた宝くじが目に入った。さっきの夢の内容は覚えていないが、昨日の神社の背景とともに聞こえた声を思い出す。
「まさかね」
発表日は過ぎているのでネットで検索してみた。信じてはいないけど、可能性はゼロではない。恐る恐る結果のページを開く。一等三億円。流石にない。二等一〇〇〇万円。ここも当然……。流し読みしていると手元にある紙切れと同じ番号があった。
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