景星

2/6
前へ
/6ページ
次へ
 その日の夜、いつものように電車に乗り、帰路に着く。最寄り駅で降りた後、ふと空を見上げると、暗く濁った空があった。街明かりに照らされて灰色の模様が広がる。 「田舎にでも行って、星を眺めて過ごしたいな」  幼いころから星が好きで大学では天文学を専攻したほど。ただ、数学が苦手だった私は修士課程に進むことを諦め、学習塾に就職。就職先は完全に外れだったが。 空から目線を地上に戻すと神社が目に入る。三年も行き来していたのにこれまで気づいていなかった。 「ちょっと行ってみるか」  鳥居をくぐり、社の前に立つ。賽銭箱に五円を投げ入れ、手を合わせる。そして、『今の仕事を辞めて、星を眺めて生きていけるようになりたい』と心の中で願う。 「まあ、神なんて信じてないけどね」  それから近くのコンビニでチューハイを購入し、マンションに戻る。暗い部屋の明かりをつけ、レジ袋を玄関にある台に放り投げる。 「今日もいらついたわ」  洗面所に向かいクレンジングを含ませたコットンで肌をなでる。この作業も本当に面倒くさい。  浴槽にお湯もたまり、いつものようにスマホを持って入浴。この時間が至福の時だ。 防水ケースに入れたスマホで電話をかける。 『お、また愚痴かね、星奈ちゃん』 「またって。いつも私が愚痴しか言わんみたいじゃん」 『この時間に電話かけてくる時はいつも愚痴やろ?』  景子は大学時代からの友人で、何かあると景子に電話していた。つらいことがあったとき、楽しいことがあったとき、失恋した時。 『今日も聴いてあげるから。話してみい』  いつまで話していたのか、記憶にない。 『机の上をしっかり見なさい』 その声が聞こえた時、日の光が顔に当たる。 「お、もうこんな時間ね」  今日は休みだからこの時間に起きても別に問題はない。でも、洗濯や掃除、しないといけないことは多い。昨日、玄関に置いたままのチューハイは生ぬるくなっていた。昨日は多分、夜中の二時まで長電話していた。お風呂から上がった後そのまま寝ていてため、髪はパサパサ。常温になったチューハイを冷蔵庫に放り込んだ後、軽くシャワーを浴びる。  髪を乾かした後、机に放り投げていた宝くじが目に入った。さっきの夢の内容は覚えていないが、昨日の神社の背景とともに聞こえた声を思い出す。 「まさかね」 発表日は過ぎているのでネットで検索してみた。信じてはいないけど、可能性はゼロではない。恐る恐る結果のページを開く。一等三億円。流石にない。二等一〇〇〇万円。ここも当然……。流し読みしていると手元にある紙切れと同じ番号があった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加