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「とにかく、救急車、」
俺がそう言って携帯を取り出して、電話をしようとした瞬間だった。
倒れていた人が目を開けたのだ。
瞳の色は深い青色で俺は見惚れてしまった。
その倒れていた人は顔がかなり整っていた。
筋の通った鼻に切れ長の目、小さな唇。
その繊細な美貌は青みが掛かった銀色の髪も相まって、妖精の国の王子様と言った風情がある。
その美しい人は俺の携帯を持っている方の手を握ると、
そのまま顔を近付けてキスをして来た。
(見ず知らずの相手にどうしてこんな事を?どうしてこんな格好をしているんだろう?あれ、急に体がどっと疲れて来た。昨日、あれこれ悩んで夜遅くまで眠れなかったから、その疲れが急に襲って来たのかな。)
俺がそんな事をぐるぐると考えていると、いつの間にか時間が経っていたのか、ゆっくりと相手の顔が離れて行った。
そうして、その銀色の髪に青い目を持った人は、俺に薄く微笑むと尾びれを翻して、ぼちゃんと海に潜って行った。
そして、俺はその微笑みに強い衝撃を受けた。
(これだ!俺の書いている小説に出て来る登場人物たちは、どうにも毒気がなくてつまらなかったんだ。早く家に帰って書いて形にしないと。)
そう思った俺は徹夜で疲れた体を引き摺って、家に半ば走って戻って行った。
それぐらいにあの微笑みは良かったのだ。
生意気でどこか残酷で華があった。
そのまま家に無事に戻って、執筆活動に没頭した俺は、段々とあの美しい青年の事は記憶の片隅に追いやってしまった。その当の本人がここに来るとは知らずに。
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