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だが、呪いと言われてすぐに信じられるはずもなかった。
「いやぁ、私が鈍臭いだけじゃないかな」
梨花が言うと夏菜子は小刻みに頷いて答える。
「うんうん、まぁ梨花は鈍臭いけどさ」
「おい」
「けど、梨花以外の女子も同じような目に遭ってるの。もれなく、だからね。近づけないから付き合うどころか、告白もできないんだって」
夏菜子の説明を聞いた梨花は胸の前で拳を握りしめた。
「呪いだかなんだか知らないけど、そんなものに私の気持ちを邪魔させないわ。よし、決めた。私、木坂先輩に告白する」
恋は障害があるほど燃えるとは言うものの、妙なタイミングで覚悟を決めた梨花。それには親友の夏菜子も呆れてしまう。
「梨花、話聞いてた? 不幸な目に遭うかもしれないんだよ。それに、どうしてこのタイミングなのよ」
「だって、目に見えないものに怯えて行動しなかったら何も変わらないでしょ。それに他の女子が近づけないなら、今こそチャンスじゃない。このタイミングだからこそ告白するの」
決意した梨花の目は、燃え上がるように輝いていた。
それは告白する、と言うよりも戦うかのようである。
その日の放課後から梨花は木坂に告白するための行動を始めた。
だが、夏菜子の話していた通り、うまくいかない。
部活前の木坂に話しかけようとした梨花は、階段で足を踏み外して足首を捻る。
保健室で足首を冷やし、部活中の木坂に声援を送ろうとすれば、サッカーボールが同時に二つ飛んでくる。
何とか回避したものの、追加のボールが飛んできて梨花は悟った。
部活中は何をしようとしてもボールが飛んでくる。
仕方なく部活が終わるのを待って、木坂に声をかけようとした梨花。しかし、突然の豪雨に見舞われ、梨花に気づいていない木坂は走って帰ってしまった。
「ダメだった」
翌朝、授業が始まる前の教室で梨花が夏菜子に言う。明らかに肩を落とし、悲しげな表情を浮かべる梨花。そんな彼女に気を遣うことなく夏菜子が訪ねた。
「何? フラれたの?」
「そんな直球な聞き方ありますかね、夏菜子さん。いや、違うのよ。告白しようとしたんだけど、近づくことすらできなかったの」
梨花が残念そうに話すと、夏菜子は興味津々といったように身を乗り出す。
「やっぱり呪い?」
「いやいや、呪いなんて……」
否定するようにそこまで言葉にした梨花だったが、流石に心当たりが多い。今では呪いであることを否定する方だ難しいくらいだ。
「呪い……なのかなぁ」
梨花が呟くと夏菜子は「仕方ないな」と呟いてから、スマートフォンを操作し始める。
いつも明るく元気な梨花が、しっかり落ち込んでいるとこを見ていられなかったのだろう。
「何してるの?」
「ちょっと待って」
夏菜子はそう言いながらしばらくスマートフォンの操作を続け、目的の画面をさやかに見せた。
「ほら、あったわよ。呪いだとか霊だとかを祓ってくれる神社」
スマートフォンの画面には『弥生神社』というタイトルとその説明が書かれている。
「弥生神社……って確か、すぐそこの小さな神社じゃなかったっけ?」
梨花が訊ねると夏菜子はもう一度画面を見ながら答えた。
「そう。こういうものは専門家に聞いた方がいいでしょ? だから周辺で呪いなんかのお祓いをしてる神社を調べたのよ。話だけでも聞きに行ってみない?」
「ありがとう、夏菜子。うん、そうね。悩んでても仕方ないし、放課後にでも行ってみる」
「私も行くわ。ちょっと興味もあるし」
夏菜子はそう言いながら、オモチャを見つけた子どものように笑顔を浮かべる。
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