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弥生神社は梨花たちの高校からそれほど離れていない。
しかし、それほど有名でもなく、静かな林道の先にあるため、わざわざ訪れる人も少なかった。存在は知っているという程度の小さな神社だ。
授業を終えた梨花と夏菜子がその林道を抜けると、立派な鳥居の下で掃き掃除をしている老爺が目に入る。老爺は白い装束に紫色の袴を履いており、神社の関係者だと一目でわかる。
梨花たちを見つけた老爺は掃き掃除の手を止め、声をかけてきた。
「おやおや、若い方がこのようなところへ来られるとは珍しい。どうかなさいましたかな?」
優しく穏やかな口調で話す老爺。
どう説明すればいいのか、と一瞬悩んだ梨花だったが元々直球な性格のため、疑問をそのまま言葉にした。
「あの、呪いって本当に存在するんですか?」
突然そんな質問をされた老爺は驚いたような顔をしたが、梨花が真剣に訊ねていることを察して優しく答える。
「ふむ、何をもってして呪いと言うべきか、人によって異なりますな。たとえば『こう生きるべきだ』と言われ、そうなろうとするのも呪いのようなもの。他にも人に対する執着などが呪いと言われることも多々。具体的な話を聞かせてもらえますと、もう少しお話しできることもありますよ」
確かに状況を説明しなければ、明確な答えなど出せるはずもない。梨花はその場で木坂のことを説明した。
話を聞いた老爺は一瞬考えてから、口を開く。
「なるほど、それは確かに不思議ですな。呪いではないか、と思っても無理はないでしょう。そうですな……その木坂さんの写真などはございますかな? もしかすると何か写っているかもしれません」
しかし梨花は木坂の写真など持っていない。
「写真はちょっと」
「あるわよ」
そう答えたのは夏菜子だった。夏菜子はスマートフォンの画面を老爺に向ける。その画面には木坂とその目の前で無様に転ぶ梨花が写っていた。
「夏菜子さん? 何これ」
梨花が訊ねると夏菜子は悪びれもせずに答える。
「木坂先輩の写真」
「いや、そうだけど! 私が転んでる写真撮ってたの?」
「うん」
「何か問題でも、みたいな顔しないの」
「何か問題でも?」
二人がそんな会話をしていると、木坂の写真を見た老爺が割って入った。
「お嬢さん方、これは呪いなんて生易しいものではありませんぞ。確かにこの少年には憑いております。それも恐ろしいものが」
老爺の言葉を聞いた夏菜子は目を輝かせて聞き返す。
「それって悪霊ってことですか?」
「悪霊と言えなくもないですな。この少年に取り憑いているのは魔女の霊です」
「魔女?」
「ええ、魔女といっても物語に出てくるような老婆ではなく、若くして亡くなった魔女ですな。かつては日本にもいたと言われています」
突然、魔女なんてことを言われ戸惑う梨花と夏菜子だったが、呪いの話をしているのだから魔女だけ否定するのもおかしな話だ。
魔女の存在を受け入れた上で梨花が問いかける。
「じゃあ、木坂先輩は魔女に呪われていて、周囲が不幸な目に?」
「呪い……そうですな。確かにそうかもしれません。しかし、もっと簡単な言葉で表現することができますぞ」
老爺は言葉を溜めてから、こう言い放った。
「恋です。魔女はこの少年に恋をしているんです。ですから他の女性が近づこうとすると不幸が訪れてしまう。この写真でも魔女がお嬢さんに悪さをしていますな。さしずめ恋という執着の呪いでしょう」
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