勝者は彼に告白を

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 なんということでしょう。そんなナレーションが梨花の頭の中で流れた。  好きになった先輩には魔女の霊が取り憑いていて、先輩に恋をしているというのです。匠の技によって近づく女性は全て不幸な目に遭ってしまう。  老爺の話を聞いた夏菜子はため息をついてから梨花に話しかける。 「とんでもない三段重ねじゃない。魔女も霊も呪いもやばいのに、魔女の霊が恋して呪いをかけてるんじゃあ、どうしようもないかもしれないわね」  直接言わないものの、諦めるべきじゃないか、という意味合いが含まれていた。  しかし、梨花は胸の前で拳を握り、不敵な笑みを浮かべる。 「ううん、何が魔女よ。正体が分かったからには怖くないわ! そうやって他の人を傷つけて木坂先輩が喜ぶわけないじゃない。絶対私の方が好きなんだから! 魔女なんかに私の邪魔はさせないわよ」  そんな梨花を見た夏菜子は呆れたように呟いた。 「そうよね、梨花はそういう性格よね」  覚悟を決めた梨花は老爺に礼を言い、鳥居に背中を向ける。 「ありがとうございます、おじいさん! 私、木坂先輩に会ってくる!」 「ほっほっほ」  若い情熱を感じ思わず笑顔になる老爺。  夏菜子もこうなった梨花を止められはしないと知っていた。 「今から行くの?」 「うん、行ってくる。魔女なんかに負けられないもの」 「分かったわ。気をつけてね」  夏菜子が言うと梨花は頷いて、林道に向かって走っていった。  小さくなってく背中に老爺が呟く。 「どうか、お嬢さんに仏の加護を」  どうしようもなく腹が立った。自分の一世一代の告白を、覚悟を邪魔されていたなんて。  梨花は木坂への想いと魔女への苛立ちを胸に走る。  もうすぐサッカー部の練習が終わる時間。走っていけば下校する木坂に会うことができるだろう。  何が起きようとこの気持ちを伝える、という覚悟が梨花の足を動かした。  それに何かが起きたとしても、それは魔女の嫉妬によるものだ。恋にライバルはつきもの。もう何も恐れることはなかった。  学校に到着した梨花はグラウンドを確認する。まだ野球部が練習をしているが、サッカー部はおらず、もちろんそこに木坂の姿はない。  もう部活動は終わってしまったのだろう。 「木坂先輩帰っちゃったかな」  梨花が呟きながら周囲を見渡すと、グラウンドの隣を一人で歩く木坂を見つけた。 「いた!」  思わず梨花は何も考えずに木坂に向かって走り始めた。その時点で魔女も梨花を見つけたのだろう。突然足がもつれ転びそうになる。  しかし、梨花は右手を地面について、なんとか体勢を持ち直した。  手のひらが熱い。 「痛っ」  傷だらけになっていることがわかった。けれど梨花は足を止めない。  それでも魔女の呪いは続く。  梨花の靴が地面に固定されて足が止まってしまった。そこには物理的な原理など存在しない。ただ、停止ボタンを押された映像のように地面に固定されたのである。   「くそぉ、負けるか!」  梨花は靴を脱ぎ捨て、そのまま木坂の元へ向かう。  その次の瞬間、グラウンドで練習していた野球部の方からカキンと金属音が聞こえた。小さな白球が驚くほどの速度で梨花を襲う。  だが、グラウンドからボールが飛んでくることなど経験済みだ。梨花は前転の要領で白球を回避すると再び走り始める。  もう木坂までは近い、ようやく告白することができるようだ。 「木坂先輩!」  梨花が呼びかけると木坂は驚いたように聞き返す。 「どうしたの? 裸足だし、制服も汚れてて、怪我まで……」  どうやら梨花の不幸を見ていなかったらしく、当然のように心配する木坂。魔女は木坂に他の女の不幸を見せていないようだった。  覚悟を決めた梨花は遂に自分の想いを言葉にしようとする。
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