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彼女の家が、母子家庭だということは知っていた。中学からこちらに越してきたということも。多くの時間を共に過ごして、もう知らないようなことなど何もないような気がしていた。
「あの……」
かけるべき言葉を見つけられずにいると、彼女がまるで水中から浮上したときのようにぷはっと息を吐いた。そして、わたしの知っている表情で笑い出した。
「嘘だよ」
「え?」
呆気に取られたままのわたしに、嘘、嘘、と繰り返す。
「ほら、今日、四月一日だから」
日付を言われてもすぐには何のことか分からなかった。それだけ、彼女の話に引き込まれていた。
「エイプリルフール……」
「そう。いつも落ち着いてて、普段全然動じてくれないから、ちょっと驚かせてみたいなって思っただけなんだけど」
思ったより信じてくれてるみたいだったから。そう言ってまた笑う彼女の笑顔は小学生みたいで、ちっとも美少女のそれではなかった。
「騙された?」
「騙されたよ。反応にも困ったし……」
「最低な大人と暮らしてたのは本当だけど、別に殺してはいないよ。母が普通にお別れしただけ」
「そっか」
まだ、心臓がばくばくしている。きっとこの先どんなエイプリルフールが来ても、わたしが驚くことはないだろう。そう思った。
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