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エイプリルフールの午後
あたりつきのアイスをしゃく、と頬張る。すぐ隣で同じ音がした。彼女のはソーダ味で、わたしのはコーラ味だ。
「今日、夏みたいに暑いね」
友人の言うことは、いつも少しだけ大袈裟だ。確かに今日は暑かったが、四月になったばかりの日差しが夏みたいだということは、さすがにない。
「そこまでじゃないよ」
「そうかな? 君も暑いと思ったから、一緒にアイス食べてるんじゃないの?」
「アイスは、いつ食べてもおいしいからだよ」
特に部活終わりには、と付け足すと、分かる、と彼女は笑った。友人は黙っていると近寄りがたいほどの美少女だが、なかなか黙らないのでそうは見えない。
「今の暑さで夏を感じてたら、本物の夏が来たとき大変だよ」
「いいよ。夏は、嫌いじゃないんだ」
わたしは嫌いだが、それは言わないでおく。
「ねえ、これ、あたりが出た方が勝ちってことにしない?」と彼女が棒つきアイスをペンライトのように振った。
「え? いいけど」
最近わたしたちの間では、勝負をするのが流行っていた。どうでもいいようなことで競っては勝敗をつけ、勝った相手の言うことを聞く。言うことを聞くと言っても、休日遊びに行く場所を決める権利だとか、お金を渡すからジュース買ってきてだとか、そんな他愛もないことばかりだった。
「ふたりともはずれてたら、どうするの」
「そのときは、引き分けにしよ」
引き分ける可能性が圧倒的に高そうな勝負だった。それとも、彼女にはもうあたりの「あ」の字が見えているからこそ、こんな勝負を持ちかけてきたのだろうか。そんなことを思いながらしゃくしゃく食べ進めていると。
「あ」
「あ?」
「あたり、だ」
あたったのは、わたしの方だった。
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