プロローグ

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プロローグ

「え……と、あれは?」 思いも寄らぬ光景に、足が止まりました。私は目を細めます。 「まさかとは思いますが、あそこに見えるのは……まさか?」 そのまさかが現実、目の前で起こっているのです。 アレーラ王国、リオネルシア城内において、その広大な敷地の中庭、噴水近くに人だかりがありました。人人人が取り囲んでいるのは、一台の白いバン。小さな窓が両サイドに開かれて、その窓にカウンターがついています。 ヒラヒラはためくのは、カラフルな赤青白色の日除け。 ああ懐かしい光景です。 私は、私がまだ日本の企業で働いていたころのことを思い出しました。そう。OLのランチには、大変ありがたい存在でしたから。 「でもまさかこんなところにキッチンカー? いったいなにを販売しているのでしょう?」 よくよく見れば、キッチンカーの屋根に、アレーラ王国の旗がはためいています。ただ、この国旗は一般的なそれとは異なり、中心にオオワシの紋章が色とりどりの刺繍によって施されています。 これは王室専用の国旗、すなわちこのキッチンカーはお墨付きを得た、王室御用達というわけです。 「んー油で揚げた良い匂いがします」 匂いに誘われて、自然と人だかりに足が向きます。 確かにキッチンカーには人を惹きつける、そんな魅力があります。 なにを売っているのだろう? 高まっていく期待。 なんて美味しそうなのかしら! そんなワクワク感。 私はポケットのおサイフを取り出しながら、キッチンカーへと向かいます。 立て看板には、『アメリカンドック』。 まさかのまさか。こんなところ(・・・・・・)で、アメリカンドックを食べられるなんて! 「あのう、ひとつくださいっ!」 人だかりの落ち着きを見計らって、声を掛けます。 「まいどどーも」 店員さんが手を伸ばしてきます。 イケメンです。この国特有の褐色の肌に黒髪。白い四角形の帽子をかぶってはいますが、髪が所々くるんくるんとなっていて清潔のための帽子では覆いきれてはいません。指を、「ぅあたたたたたたっっっっ」と、突っ込みたくなるような見事なカーリーヘアです。 愛想笑いなど、これっぽっちもありません。 ただ。 ぶっきらぼうな雰囲気ではありますが、アメリカンドックをパパパッと注文通りに売りさばく姿はお見事としか言いようがありません。ギャップ萌えでございます。 よーく周りを見てみると、みなさんアメリカンドックを買ってはいますが、ひとくちも口をつけていません。なるほど3秒で、みなさんがこのイケメン店員さん目当てなんだなと理解しました。 「ケチャップとマスタードはかけていい?」 低音のしっかりとした声が胸に響きます。 「はい!」 手に握りしめていたこの国の通貨、500アレを、人だかりの中、なんとかして店員さんの手の上に置きます。 そして代わりにアメリカンドックを受け取りました。真っ赤なトマトケチャップと黄色のマスタードが黄金色の生地に映え、『アメリカンドック』という名の完成された美を感じます。 「ありがとう、いただきます!」 人だかりから逃げるように脱出。 すると、背後で「うまかったらまた買いに来い!」と声がかかりました。 少し上から目線でしょうか。 ですが、そんな思いも、キャーーーーステキィィイーーーーの黄色な歓声にかき消されてしまいます。 私はまあいいやと自分の部屋へと戻りました。熱々のアメリカンドックをむさぼります。 「うっっっま、うまあ、うまい!」 最高です。アメリカンドックもさることながら、店員も異国情緒あふれるイケメンさん。少々ウエメセが気になるところですが、眼福でございました。 さあ。 冒頭に戻ります。 なぜ、こんなところ(・・・・・・)にキッチンカーが? という疑問が、まったくもって解決しておりません。 けれど今は満腹にて、思考回路も休止中。うつうつと眠たくもなってきました。 「おなかもいっぱいになったし、満足ぅ……ふわあぁ」 あくびがひとつ。 「……うん寝るか」 疑問はさて置いて、本日は非常に良い一日だったと、ベッドに潜り込みます。 では、皆さま、おやすみなさい。
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