35人が本棚に入れています
本棚に追加
『OMOTENASHI』の真髄とは?
高い天井まで伸びるドアを、両隣りに立つ衛兵に開けていただきます。
さあ、ご覧になってください!
謁見の間には、私が配置した花輪が置いてあります。あれです、あれ。日本では新装開店に飾る丸いやつです。
王室御用達のフラワーショップにて、設計図のいちから発注しました。
また、庭に咲いたバラを摘んできて、レッドカーペットの両サイドにあしらいました。バラは広大な中庭にたくさんの種類が咲いておりますので、取り放題です。(念のため、大切なバラに何しとんじゃ! などとド叱られないように、庭師のカンジさんを通して、庭師長にお伺いは立てています)
ダンケさんが一歩入った瞬間、感嘆の声を上げました。
「ほおぉぉ、これは素晴らしい! 目に美しいだけでなく、心地よい香りに癒されるう」
第二王子リュミエルさまは、少し遅れるとのこと。すでにお席を用意していますので、そちらをご案内いたしました。
「このお茶は?」
「リモネ茶でございます」
「ほほう、なんとも懐かしい……んー、やはり美味いな。私はカリナ地方の出でね。幼い頃からこのリモネ茶を……」
ダンケさんは、はっと顔を上げました。
「ま、まさか、私がカリナ出身と知っていて……?」
「はい、さっそくお取り寄せさせていただきました」
ダンケさんがテーブルに手を伸ばします。茶菓子をつまみ、口に入れた瞬間。ガタンとイスから立ち上がりました。
「なんとこの茶菓子は……」
そして私をじっと見つめます。
「リュミエルさまのおもてなし係とは、これほどまでに……」
「カリントゥーでございます」
「ああ、ああ! もちろん知っている。これは母がいつも幼い私のために手作りして下さっていた菓子。なぜ……なぜそこまで……」
ダンケさんは、またそろりとイスに座ると、うるうるっと瞳を揺らしながらお菓子を丁寧に口へと運びます。時折、遠い目をされながら、懐かしい味を噛み締めるように味わっておいでです。
「それは良かったです。お喜びいただけまして感無量にございます」
とはいえ、カリントゥーは私がOL時代、好きで食していた『かりんとう』に名前が似てるなあ、ってか同じじゃね? とチョイスしたまでですが、なんか上手く事が運んだ次第です。
「ファファファーン♪」
そこでファンファーレが高らかに鳴りました。
「リュミエルさまのおなりー」
「それではダンケさま、私はこれにて失礼します。が、もしなにか詩作に関するひらめきやアイデアがございましたら、ここに」
ワゴンの下段には、バラ花粉の鼻をかむ用のティッシュと、ホワイトボードとマジックペンを用意しておきました。
「なんと私が宮廷詩人であるがゆえに……うむ。このダンケ、確かにエレ殿の『OMOTENASHI』の心を受け取った!」
私はこうべを垂れながら、その場をそそくさと退散しました。
結果。
ダンケさんはおおいに喜ばれ、そしてリュミエルさまへの謁見に臨まれた後、その様子を詩に昇華し、見事な作品を一本完成させた上で、大満足で帰路につかれたということで、冒頭へと戻ります。
初仕事を無事に終えることができたようです。
「初めてにしては、なかなかの手腕ではないですか」
鉄面皮のレオポルドさんが珍しく褒めてくださいました。
どうやら私のこの首もまだ、つながっているようでございます。
✳︎
「まあ。こんなところでチュロスを?」
アレーラ王国、リオネルシア城。その城下町へ買い物にやってきたときでございます。
私はリサさんにお聞きした、布地屋さんに足を運ぼうとしていました。
「町の中心部に大きな広場があるんですけど、そこで年に2回、町をあげてのお祭りが盛大に行われるんですよ。その春のパン祭りが二日後にあるので、色々と広場も飾り付けがされてると思いますから、エレさまもご覧になってはいかがですか?」
なぜか急にリサさんが、上記の説明っぽい内容を早口で話し始めました。
最初のコメントを投稿しよう!