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私がいつもキッチンカーで購入するとお思いですか?
「春のパン祭りですか。私のいた世界にも、同じようなお祭りがありまし……」
「! パン祭りですからね、国中からパンが集まってくるわけですよ。アンパン、クリームパンなどのオーソドックスなパンから、変わり種パンまで。楽しいし美味しいですよ」
「アンパンやクリームパンはオーソドックスなんですね。私のいた世界でも……」
「! そういえばエレさま! お仕事にお使いのテーブルクロスを見に行かれるんですよね? 今から行ってきて良いですよ!」
と、私のカバンをぐいぐいと押しつけてきます。
「え、あ、と、もう少し休憩してから……」
飲みかけの豆コーヒーが入ったマグカップを掲げます。実を言えば、先ほどまで根をつめた事務作業(主にスケジュールの確認や請求書の整理)をこなしていて、ようやくひと息ついたところです。
が。
「! お店が閉まっちゃいますから、早く出発した方が良いですよ! それでお目当てのお店は、ほらこの通り、地図を書いておきましたから」
一枚の紙を渡されます。私はカバンとそのメモを持って仕方なく、では行ってきますと席を立ちました。
一度、ドアへと向かいましたが、あれれ? と、リサさんの方へと向き直ります。
「リサさん。この地図はどう見ても遠回り……」
「! お祭りの準備をしている中央広場もぜひに見てきてくださいな! きっとなんらかの成果が得られるんじゃないでしょうかね」
「なんらかの……そうですか。わかりました。今後の後学に見学してきますね」
「よろおつ」
私は城を後にしました。
私がこのアレーラ王国へ飛ばされてきてから数週間。城下町に繰り出すのは二度目でございます。前回は庭師のカンジさんがいらっしゃったので、わざわざ道を覚えることもありませんでした。
城の中は歩きっからかしたので、すでに地図は頭に入っておりますが、城下町はもちろん歩き慣れてはおりません。頼みの綱は、このミミズが縦横無尽に走り回っただけのような、リサさんの地図のみ。
「まあ、春のパン祭りがどれほどのものなのか、この目でしかと見ておきましょうか」
そして、城下町を歩きっからかして、ほどなく町の中心部、ロイヤルブレッド広場に到着しました。
あちこちで、ワイワイガヤガヤと屋台の準備がなされています。
「おーい、こっちにもテントを持って来てくれ!」
「こんなんじゃカゴが全然足りないぞ!」
なかなかの出店数です。
「売るのはパン一択なんでしょうか」
そんな中、広場には大きな櫓が建ててあり、色々な布地で飾り付けが施してあります。櫓の柱に巻いてあるものから、櫓の手すりに彩りを添えているもの、足場を隠すための大判の布などなど。
「隠し方や飾り方が参考になりますね。かつてお越しいただいたダンケさんがお座りになられたイスやテーブルなどにも、布を敷いておけば華やかになったでしょうに……と思うのも後の祭りですね祭りだけに」
すすすと櫓に近づき、結び方などもチェックします。
その時、大きな「いらっしゃいいらっしゃい」の声が聞こえてきました。
ふと、櫓から覗き見ると、広場の隅に見覚えのある一台のキッチンカーが。
「あら? またこのような場所で?」
三回目でございます。なんだか不思議なくらい、私が行くとこ行くとこに現れますね。
柱の陰からチラ見していますと、一層大きな声で「いらっしゃいいらっしゃい」と。
よく見ると、ノボリには『チュロス』と書いてあります。
「まあ。こんなところでチュロスを?」
私がまだしがない小学校の生徒だったとき。チュロスが流行り出したばかりで、チュロスとはなんぞやな時代。学校近くのキッチンカーで購入し、その美味しさにマジかっっと驚いたことが走馬灯のように思い出されます。
あの幼い頃の感動をまた味わいたいと、足が前へと一歩、進みました。
が、一瞬。足が竦みました。なぜなら、いつものイケメン店員さんが、私に向かっておいでおいでをしているではありませんか。
「そこの者っ! やっと来たか! 遅い!」
え。
確かに私がこのキッチンカーに出会うのは三回目。常連さん枠に片足を突っ込んでいるのやもしれませぬ。
が。
どう考えても遅い! と怒鳴られる筋合いはございませんよね。かつてよりウエメセが気にはなっておりましたが、これはもはやパワハラの域でしょう。
「先を急ぎましょう」
そう言って、くるりと踵を返します。
すると、焦った声が聞こえてくるではありませんか。
「あ? え? なに? ちょっと……待て! どこ行くんだ! チュロスは食わないのか?」
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