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え?
「この節操のないゴミ箱め!俺のエレをゴミまみれにしやがって! 許さんぞ、こうしてやる!」
そして、私を抱っこしながら、右足でゴミ箱を、サッカーのように蹴り飛ばしました。
ゴミ箱はガランゴロンと音をさせながら、遠くへと飛んでいきます。
「さあ、そなたを苦しめるゴミ箱めは、どこぞへと消え去った。エレ、これで先日のお礼になっただろうか」
カッコイイー! ってなるのもわかるぅー!
「はい! ありがとうございました!」
「また、キッチンカーを手伝ってくれるか?」
「もちろんです!」
「はは。良かった! 嬉しいぞ……あっ、と次からはちゃんと給金も支払うつもりだ」
「お金にガツガツしてすみませんが、そうしていただけると助かります」
転んでもただでは起きませんよ、さすが金の亡者だな、などと言って二人、笑い合いました。
え?
あれ?
ちょ待って?
時間を巻き戻してください!
私は先ほどのアラハムさんのセリフを頭の中で反芻しました。
『この節操のないゴミ箱め!俺のエレをゴミまみれにしやがって! 許さんぞ、こうしてやる!』
俺のエレを……?
俺の?
そう言いましたね? 確実に言いましたね!
はっとしました。
なるほど! と。
俺の(社員である)エレを……ということでごさいますね。()部分を補完
勘違いも甚だしい妄想に陥るところでした。ふう。
その時。
調理室のドアが開き、中からひとり人が出てきました。
調理長のサイさんです。右手にビニール袋を持っているのは、どうやらゴミですね。
サイさんはびくっと驚きながら、「あれ? ゴミ箱はどこいった? ……ってか、いったいなにしてるんですかっ、国王陛下!」と叫びました。
え?
こくおうへいか?
キッチンカーの褐色肌黒髪カーリーなイケメン店員じゃなくて?
国王陛下? (ここでようやく漢字変換)
国王陛下ってあれ、ここアレーラ王国の?
私はそろりとアラハムさんの腕から降りると、ずざざざっとスライディング土下座をかましました。
「こここの度はこの度は不躾な失礼をばばばば」
と、ぷつんと。
そこで記憶が途切れています。あまりのショッキングな事件に、どうやら私は再度フリーズし、今度は本当に気を失ってしまったようでした。
国王陛下って……バナナ食べるんだ……と思いながら。
✳︎
目は覚めました。どうやら私は気を失ってしまった模様です。なんとなく気を失う直前の出来事が、脳裏を暴れ馬のように駆け回っておりますので、まだ目はぎゅっぎゅっと瞑っております。
ゆ、夢であれ。
「エレ、エレぇ、おい! レマン医師よ、エレは本当に大丈夫なのか? 」
「はい。エレさまは気を失っておられるだけでございますから、もう少しすれば目を覚まされると思われます」
「くそっ! あの腐れゴミ箱めがあ! ああエレ、ゴミ箱に食われた後遺症でこんな目に……エレ、目を覚ましておくれ」
そうです。すべてはあのゴミ箱のせいです。
夢であれ。
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