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婚約者……ですか……?
アリサルビア城に到着し、お部屋に通された私はさっそく、仕事の準備に掛かります。
「エレとやら。ようお越しくださった。ワシはカナダじゃ。頼んだぞい」
国王の右腕の右腕の右腕、右手の小指第二関節ほどに値する人物であるカナダさんが、もの寂しげな雰囲気の頭頂部をものともせず、ペコリペコリと頭を下げてきました。
まあ! いわゆるおじさまと言われる年齢でも、褐色の肌だと一見、イケイケなサーファーに見まごうてしまいます。
「私は澤田絵令です。よろしくお願いします。さっそくですが、今回のおもてなし案件はどのようなものなのでしょうか?」
「それがだな……とても難しい依頼なんじゃ」
「と申しますと?」
「しっ! こちらへ」
カナダさんは辺りをキョロキョロと見回しながら、ちょいちょいとオイデオイデをします。廊下の片隅にじり寄っていき、そこでコソコソと話をし始めます。
「実は今回、この城に招待したのは……隣国、サンデルチ王国の第一王女なんじゃよ」
「えっっ!」
私は声を上げてしまいました。
「ななななんですって!」
「声を荒げるでない! どこの誰が聞いておるかわからんからの」
「すみません。でもまさか、王女さまがいらっしゃるとは……」
「王女といえど、陛下の幼なじみじゃ。まあ婚約者でもあるがの」
ドガンと衝撃が走りました。こここここ婚約者?
そうですか……
いえ、そうでしょうとも。
国王ともなれば、もちろん婚約者ぐらい、いらっしゃることでしょう。
「サラ王女(へぇ〜サラって言うんだあ、スカした名前!)をお迎えする宴のおもてなし(別にもてなさんでもいいんじゃね?)をお願いしたい。エレ、予算はどれだけかかっても(太っ腹だなおい!)良い。サラ王女が気持ちよーく(は?)帰っていただくように、手はずを整えてくれ(めんどくさっ)……なんだかんだ」
「は、はい」
カナダさんの言葉はもはや、私の内面の声により掻き消されてしまい耳に入ってこず、私は曖昧に頷くしかありませんでした。
気持ちがどんと落ち込んでしまったのです。
なんとか返事はしましたが、心が暗くなっていくのを感じます。
(婚約者いるんだったら、私にまで優しくしなくてもいいのに……)
部屋へと戻り、カーテンを開けて窓ガラスを開け放ちました。新鮮な空気を吸って、気分をリフレッシュしたくて。
「なんか身分差や諸事情わかってたけど……婚約者がいるなんてちょっとショックでした……」
窓からは広い中庭が見えます。もちろん、リオネルシア城にも広大でバラ園を含む、素敵な中庭はあるのですが、このアリサルビア城にはさらに大きな庭園がございます。
私がくぐった正門から、いったいどれほど馬車で進んだでしょうか。
このままでは日が暮れて朝になってしまいますね、この馬車は夜行ですか? とまで走って走って走りまくって、ようやく到着したお城は、やはり大きく立派で、国王が住まわれるに値する、豪華絢爛な建物でございました。
そんなお城の一室。
「はあ〜あ」
窓際で深くため息をついてしまいます。
サラ王女がいらっしゃるまで、あと二週間。あまり猶予はなく、色々と手配をしなければなりません。
「やる気が全然出ないです……(´・ω・`)」
私が窓際で、黄昏ておりますと、そこへ。
プップ〜とクラクション。
あのキッチンカーが現れました。庭園の砂利道をジャリジャリいわせながら、ゆっくりと入ってきます。
「アラハムさまのキッチンカーだわ!」
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