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斜め上から攻撃されましてよ?
腕をぐいっと引っ張られました。長い廊下を無言で歩くアラハムさまの後ろ姿を見つめながら、必死についていきます。アラハムさまの手にも力が入っていたことでしょう。少し、手首に痛みを感じましたから。
けれど、この胸の痛みに比べれば。
アラハムさまは私をいつものキッチンカーへと連れていきました。
「エレ、あれから色々と試行錯誤してだな。これを見てくれ」
私は言われるまま、ガチャッと開けられたドアから、助手席を覗き込みました。
「まあっこれは!」
なんとシートベルト(布製)が付いているではありませんか。
……ってかこれ、タスキ……だよね?
「センキョとかなんとかをやっておった者に、譲ってもらったのだ。胸に斜めがけにしておったから、ちょうど良いと思ってな」
(選挙? ははあ。なるほーど)
『山田三郎太 国民党』
はい。
そして。
これがその……エアバック的な……
「ヨギボウのビーズクッションだ。これなら顔が当たっても痛くないだろ?」
「確かに!」
とっさに賛同してしまいました。
「これだけのご準備をされて……もにょもにょ♯◎@‰」
最後には、言葉がもにょりました。ここまでやっていただいて、これでは断りにくくなってしまいます。
「安全性はこれで担保された。だから、一緒にキッチンカーで……」
「安全装備は十分でございます。ただ、申し訳ございませんが、アラハムさまは運転免許を……」
すっと胸ポケットから一枚のカードを取り出されました。
「これは?」
「運転免許証だ」
「まさかのよっちゃん」
「本物だ。教習所にも通った」
「ちょま!」
私は慌ててカードを受け取り、まじまじと。
「こここここれはああぁぁぁあ」
まごうことなき、日本国発行の運転免許証です。顔写真もついていて、もちろんのこと、ちゃんと褐色肌のスーパーイケメンに写っています。
か、かっこいい……どころじゃねえ!!
いや、これは失礼。
「待ってください! これはいったいどういうことでしょう?」
「なんだ、なにが問題なのだ?」
「この免許、どこで取得されたのですか?」
「!!」
アラハムさまは急にもじもじおどおどし始めて、「そそそそんなことはどうでもいいことであってだな!」などと、みるみる挙動不審になっていきました。
どうやら問題勃発でございます。
*
「ええ⁉︎ この異世界と私の住んでいた日本国との連絡通路がある、ですって⁉︎」
「……ここが異世界かどうかはわからんが、まあ、そうだ」
歯切れの悪い返事でございます。ですがその言葉に、私は驚愕してしまったのです。
「では、私……い、家に……か、帰れるんですね……?」
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