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完 ということで良いのですね?
「そうだ! カンジ殿とけけけ結婚するなら、カンジ殿との別荘を建ててやろう。中庭の南側はどうだろう? 日当たりも良いから、庭にするには最高の立地だ。こここ子どもが産まれたらそこを遊び場にすると良い。だからエレ、どどどどうかこの城に、いや、このアレーラに留まって欲しい」
え、と?
キョドりすぎではごごごございませんか?
「どういう展開なのでしょうか。私を、その……想っていた……とは?」
「……話せば長くなる。だが、話そう」
陽が傾いてきました。日没まで、そう時間はありません。
*
「アラハムさま」
「ああ」
「では今までのお話を要約すると……」
日没には余裕で間に合いました。完徹も覚悟しておりましたが、意外とショートストーリー。私はごくりと唾を飲み込みます。事情がようやくわかったのです。
「アラハムさまは数年前から、リュミエルさまのお城、リオネルシア城の玄関ホールの階段に繋がっている連絡通路を通って、よく日本へ観光にいらしていた。そしてキッチンカーでランチを購入していた私に出逢い、恋に落ちた、と。偶然、足を滑らせてリオネルシア城に飛ばされた私に気づくと、私を喜ばせようと喜々揚々とキッチンカーを日本国で購入(中古)。色々なキッチンカーレシピを研究してアメリカンドッグやチュロスを販売、現在に至る。ってことですね?」
「ああ。そうだ」
「では、アラハムさまは私を……その……?」
「ああ。愛しているのだ」
顔がカッ!! っと火照ってくるのを感じました。
「このアレーラ王国に飛ばされ、不安に思っているであろうエレに喜んで欲しくて、キッチンカーを始めたのだ。エレ、おまえが日本で幸せそうに、キッチンカーで買い物をしていた笑顔が、忘れられなくて……キッチンカーの店員になり、おまえに、おまえだけにその笑顔を向けて欲しかった。そうなれば、どんなに幸せか。笑って欲しかったのだ」
「ですが、アラハムさまのご婚約者サラ王女は……」
「サラ? サラはただの幼なじみだ。婚約者などではないし、それ以上の付き合いはない」
「で、でもカナダさんが婚約者だと」
「すまない、エレ。カナダも俺を応援してくれていて……」
「ま、まさか! レオポルドさんやリサさん、まさかのまさか料理長のサイさんまでも?」
「俺の応援団だ」
「やっぱり! だから私の個人情報が流出していたのですね。ってことは!」
「サラも」
「サラ王女も!」
「白状する。あの宴は、おまえの気を引く為の、サラの演出だ。ヤキモチを焼いてくれたらと……」
なんてこったいですね。そういえばやたらレオポルドさんが座布団をくっつけてたな。クソがっっっ(こほん失礼)と、思っていましたが、これはもう舌を巻くしかありません。
「エレ。おまえはおもてなし係としても優秀であって、そしてキッチンカーでの販売においても、仕事ができ有能で。その上、このうえなく思いやりがある優しい女性だ。そんなエレと時間を過ごすにつれ、俺は心からエレのことを愛してしまった」
アラハムさまの美しい瞳から、涙がぽろっと溢れたのを見て、驚いてしまいました。
「あ、アラハムさま!」
「エレ、おまえに想われているカンジ殿が……心底羨ましい。だが、良いのだ。おまえに想われずとも俺の側に……目に届くところにさえ居てくれたら。遠くからでもおまえの姿を見ることができたら、それで……。だから、どうかカンジ殿と一緒に帰るなどと言わないでおくれ。おまえ達の身の保証はする。年金も支給するつもりだ。だからどうか……」
アラハムさまは、そっと私の頬を両手で包み込みました。
「愛している。どこへも行かないでくれ」
心臓がどっと跳ね上がりました。私が弱い、アラハムさまのクウンのお顔。耳の垂れた子犬のようでございます。宝石のような瞳が、涙でキラキラと光り、いつもは凛々しい眉が、ハの字になっておいでです。
私は、私の手をアラハムさまの頬に添えると、溢れてくる涙を指先で拭いました。
「アラハムさま。あのキッチンカー、シートベルトもエアバッグも完璧(?)で、もうこれ以上ないほど安全でございますね。運転免許証も、この私のために取得までされて、これほど嬉しいことはございません」
「ああ。ああ!」
「キッチンカー、隣に乗って、一緒にお手伝いを致します」
「な! それは本当か!」
「はい!」
「だが、カンジ殿は……?」
「申し訳ございません。私めも嘘をついておりました。どうぞお許しください」
「そ、それは、まさか、」
「はい! 私が愛しているのは、アラハムさまでございます!」
完
ってなことになりまして。
もちろん日本へは帰りませんが、時々には里帰りを。
そして私はアラハムさまと、手作りキッチンカー(シートベルト代りのタスキの名前を澤田エレに作り直しました)にて、新作レシピを考案しながら、悠々自適に地方へ視察に走り回っております!
ちなみに最後までお会いできずにいた、アラハムさまの弟君リュミエルさまですが、歳の離れた弟君ということで、まだ御歳8さいとのこと。なんとまだ小学2年生ではございませんか。
アラハムさま似の、リトルイケメン。
「だから、リオネルシア城を留守にすることが多いのだよ。リュミエルは寂しがりやだからな。よくこの城に帰ってきてしまうのだ」
「では、初めて拝謁致しました時は……」
「御簾ごしのあれは、俺だ」
「そうでしたか。リュミエルさま、お初にお目にかかります。私は澤田絵令と申します。その節は助けていただいた上、衣食住まで大変お世話になりました」
「? おねーちゃんは誰ぇ?」
私とアラハムさまは、顔を見合わせて、笑いました。
「リュミエル、この方は兄上の大切な婚約者だよ」
アラハムさまは、リュミエルさまの頭をポンポンすると、眩しいほどの笑顔を見せてくださいました。
幸せにございます!
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