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おもてなし係とは?
「ナントカ殿下?」
「リュミエル殿下です。この国の第二王子だそうで」
「それがまだ俺は会ったことがなくて……一応、俺の雇用主だから、挨拶くらいはしとかねえとって思ってるんっすけどね」
「私もなにかお仕事をいただければ良いんですが。なーんも特技がないっていうか……こんなんじゃ私、追い出されますかね?」
「いやあ大丈夫じゃないっすかね。俺みたいな見習いでも雇ってもらえたんっすから」
「ではなにかお仕事をあつらえてもらえないか聞いてみますね」
お仕事中にお邪魔して、すみませんでしたと席を立ちます。そして中庭をぐるりと探索し、城へ戻りました。
*
リュミエルさまに拝謁できたのは、私がこちらへ飛ばされてから、一週間ほどのちのことでした。
お声がかかり、なにか失礼があったら手打ちかも、などとぶるぶる震えながら御前へと進みます。そして私はそこで正座をし、三つ指をつきながら頭を下げ、ご挨拶を申し上げました。
「この度は、なんの縁もゆかりもない私めを、こちらのお城に住まわせていただき、誠にありがとうございます。また、手厚い衣食のご配慮、大変に痛み入ります。殿下には感謝しかございません」
そして顔を上げました。
当のリュミエル殿下は、天井から垂れ下がった御簾の向こう。
「すまんが、今着替え中だから」
と、カーテンをシャッと引いておいでです。顔はハッキリ見えませんが、お優しい声で話されます。
「わけもわからないうちに外の世界から連れてこられ、大変難儀な思いをしたな。元の世界に戻る術が見つかるまで、ここで面倒をみてやる。だが、給金を出す以上、なにか役に立ってもらわねば困る。その方、名前は?」
「サワダ エレと申します」
「ではエレ、おまえはなにが得意なのだ?」
「はあ。これといって特にありませんで。すみません」
「前職はなにを?」
「OL……事務はもちろんですが、会社にお越しいただいたお客様にお茶を出したり、お茶菓子を用意したり」
「わかった。では、おまえをこのアレーラ王国、リオネルシア城のおもてなし係に任命する!」
「ははあっっ!」
謁見は無事に終了しました。けれど、おもてなし係とは?
「わからぬことがあれば、執事のレオポルドに聞くとよい」
その言葉の通りに、私は執事のレオポルドさんの下につくこととなりました。
レオポルドさんは、リュミエル付きの執事歴8年、26歳。背のすらっと高い、雇われスラリーマンです。内面からにじみ出る賢さと物腰の良さ。
もちろんステキな顔立ちです。リサさんが、その冷徹さがキュピーンと癖になるカッコ良さと仰っていました。
「はあ、まあ、そうですか」
遠巻きに見つめるには良いかもしれませんが、私から見れば直属の上司。冷徹との噂、本当であれば尻尾を巻いて逃げ出したいところです。
さっそくレオポルドさんにご挨拶に向かいました。
「よろしくエレ。以下同文」
以下同文? 初対面で? 冷徹というより予想の遥か上をゆく、相当なめんどくさがりやさんですね。
「どうぞご指導ご鞭撻のほど以下同文。よろしくお願いします」
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