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こんなもんでよろしいんでしょうか?
書類をぴっと一枚、渡されました。
そこには『国王からの使者 謁見の儀』とあります。その衝撃たるや「イキナリキタネー」とカタカナで呟いてしまうほどでした。
「国王陛下からの使いの方です。失礼のないように」
重々承知しております。
ただ、これは初仕事。そんなわけで、多少なりとも『やることリスト』を作っておかねばなりません。
私は聞きました。
「やるべきこと、気をつけるべきこと、諸々教えてください」
「やるべきことの大まかな指示は、そこの二枚目に書いておきました。三枚目には、用意するもののリストもある。それらも抜かりなく、取り揃えておいてください」
「かしこまりました」
レオポルドさんは、もう用はないというテイで、しっしと手を振ります。
執務室を後にし、私は自室へと戻りました。
書類を見返します。お泊りいただくお部屋の用意、謁見の儀が行われる大広間の装飾、などなど。
「忙しくなりそう!」
日付は二週間後。まだ余裕があります。
そして私は丸一日、どのようにおもてなしをするのかを考えに考えながら夜、眠りに就いたのでした。
✳︎
「おお、エレ殿。あなたのお陰でとても満足のゆく滞在でした。感謝します」
お帰りになられるのは、国王より派遣された使者、ダンケさん。握手を求められ、私は手を差し出しました。
がっちりホールドぶんぶんの儀式を終え、私は再度頭を下げました。
「道中お気をつけてお帰りください」
「ありがとう。次に来る時にはエレ殿、あなたにも手土産を」
上機嫌この上なく、手を振りながら帰っていきました。
「何事もなくて良かったあ〜」
ほっとして胸を撫で下ろした次第です。
ダンケさんは王室に代々仕える、宮廷詩人とのこと。
事前にどのような方がいらっしゃるのか、レオポルドさんからリサーチ済み。
それはさて置き、初日のことをお話ししましょう。
ダンケさんは到着するやいなや、旅の疲れを癒す前に、リュミエル殿下にまずはご挨拶を申し上げたいと仰いました。
了解っした。ここからおもてなし開始です。もちろん直ぐに謁見の間にお通ししました。
「ダンケ様、改めまして遠路はるばる、ようこそお越しいただきました」
ガラガラと音をさせて私が押しているのは、小ぶりなワゴン。そこにダンケさんのお荷物を乗せて、横を並走します。
「いやあありがたい。荷物が重すぎてかなわんかったからな。あー疲れた疲れた」
「このまま謁見の間へとお進みください」
途中から加わった執事のレオポルドさんが、ダンケさんの斜め後ろから着いていきます。つかず離れずのこの距離感。参考にしなさいと言いたいのでしょう、冷ややかな眼差しで、ぐいぐいとこっちを見てきます。
時折、ダンケさんへ、私へと交互にあごをしゃくっては、口角を引き上げた憎たらしい顔で、君は本当におもてなしの真髄をわかっているのか? 的な感じで、疑いのまなこで私を挑発してきます。
レオポルドさんは眉目秀麗なお顔立ちを1ミリも変えることなく、いつも落ち着き払っています。笑った顔は1ミリも見たことがありません。1ミリ以下の鉄面皮と言って良いでしょう。
もしここで、私がなんらか、失態をおかしてしまったなら。
どのような拷問が待っているのでしょうか、考えるだけでも恐ろしい。
「オープン!」
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