告剥

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 先程のヒヨリと同じように、自分で鍵を開けて家に入る。シンと静まり返った家は薄暗い。自分もまた、母が帰ってくるまではひとりなのだ。小さい頃はいつもどちらかの家にいて、一緒におままごとをしたり、ヒヨリのピアノに合わせて歌ったりしていた。 いつもなら一度リビングに入るところだが、今日はそのまま乱暴に自分の部屋に押し入るようにして、ベッドに背中から倒れ込んだ。制服のままベッドに転がるなんて、とヒヨリに怒られそうだなと考えるも、なんだか身体が重く感じて動くのが億劫だった。改めて自分の手を透かすようにかかげてみる。 手だけじゃない。 小学校の時こそ背丈もヒヨリと変わらなかったのに、この頃は寝る度にまた一回り大きくなっていくようなスピードで、自分の身体がかわっていくのを嫌でも痛感していた。なんとかオーバーサイズの服や髪の毛で体の線を隠していたが、もう限界かもしれない。 喉を触ると、昔はなかったゴツゴツとした感触が分かって更に嫌悪感を感じてしまう。 自分の身体なのに。 ふと寝ころんだままのこめかみに、生暖かいものが流れ落ちていった。放課後の時のように手で顔を覆うと、ため息ではないものが次から次へ溢れ出すが、留めることが出来ない。  実父から性的な暴力を強いられていたヒヨリは、その元凶と離れた後でも心に傷を負ったままだった。自分と出会った時から、大人の男は一切受け付けない。今は少しずつ改善されているようだが、ひどい時は震えて声も出せず、そのまま過呼吸を起こしてしまうほどだった。そんなヒヨリをみて、大人達はヒヨリに「男」を近付ける事に敏感に反応し、庇ったのだった。 …自分を除いて。 自分は、髪を伸ばし身なりを整え、考えられる男っぽい部分を全て排除した。兎に角大好きなヒヨリを怖がらせる事だけは避けたかった。 自分は、両親に似た大きな瞳に長いまつ毛、異国の血を引いた白い肌で、良くも悪くも『女顔』。ヒヨリにとって、たった一人だけそばにいる事を許された男なのだ。誰の意思でもない、自分がしたくて、ただただヒヨリのためだけに自分は取り繕っている。だがそれももう、成長と共に限界を感じ始めていた。 ヒヨリは、明らかに自分を見て怖がっていた。 ヒヨリの引き攣った顔を思い出しては、また心が張り裂けそうになる。
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