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「……ミス6、さっきからそれ楽しいの?」
つまんなそう~つまんなそう~、と存在しない音階で口ずさむミス7。瞳の色を自在に変えられるミス6が青い目になるのは、仕事モードのスイッチを入れるとき、真剣なときだ。
冬の晴れた空に、海の青を少しだけ足して混ぜたようなはっきりとした濃い青色の瞳には、高速で出力されていく文字列が映し出されている。
「……楽しいわけないでしょ」
まったく抑揚のない、平坦で静かな声。ミス7はぶーっと頬をふくらませる。
「楽しくないことなんか、やらなきゃいいでしょ!」
一瞬息が止まり、目を見開くミス6。さっきからキーボードを離れなかった指先が初めてタイプミスをして、ぴたっと止まる。
「……仕事でしょ? やらなきゃだめじゃない」
言い聞かせるようなわずかに震えた声を、能天気に打ち破るミス7。
「え~、だって仕事ってめんどくさくない? いざとなったら社長を新作ポテチで買収すればいいのよ。あ、でも最近はじゃがいもよりバレイショのほうが好きって言ってたっけ……? バレイショって何だろうね、隠された遺書がバレちゃうのかな」
「じゃがいもの別名だけど」
「あ、分かった。つまり社長は遺産が欲しいんだ」
「話聞いてる?」
「きっと社長の遺書は暗号でできてるから、誰も読めないのよ。それを解読して、お礼金として遺産をもらうつもりなんだわ」
「え、待って待ってどういうこと? 自分の遺産が欲しいの? 死んだはずなのに自分の遺書を解読してお礼金もらうの?」
「社長ならそれくらいやると思うわよ」
二人の会社の社長がやる大体の破天荒と論理を無視した行動は、すべて「まあ社長だからね」で片づけることができる。そういう存在だ。
そしてミス6とミス7もまた、「だって私だもん」と言ってだいたいの宇宙人じみた言動を納得させる。今日の任務でも、包丁で切られてしまった腕をくっつけたばかりだ。
「あ~また腕切られちゃった~」と地面に落ちた腕を拾い上げ、「ねえミス6、接着剤かセロハンテープ持ってない?」とミス6にたかり、「また切られたの? そろそろ学習して自分で接着剤持ち歩いたら?」と呆れられながら貰ったボンドで腕を元に戻すミス7に、包丁で切りかかって来た相手はドン引きしたあと世界記録を更新しそうな勢いで逃げて行った。
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