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「っていうか、どうせ社長は今頃部下に気になってる女の人全員の家の前で待ち伏せさせてドキドキさせてる頃でしょ。毎年恒例だもんバレンタイン待ち伏せ強制ハラスメント。それなのに私たちだけ仕事するのムカつかない? サボろーよ~」
「……私、上司に選ぶ人間違えたかしら」
呆気に取られてつぶやきながら、ミス6は報告書を見返す。長い長い文を頭の中で組み立てて、暗号化して、打ち出す____正直かなりやりたくない。でも、仕事だから仕方ない。
「……」
「ねー、ミス6が相手してくれなかったら私ますますぼっちになっちゃう! クリぼっちよりバレぼっちのほうが圧倒的寂しいから! 学校の時間まで成人ゲームやって時間潰そうよ~。遊びたい遊びたい遊びたい」
「ミス7語だと、人生ゲームって成人ゲームになるのね」
「え、何言ってんの? 成人ゲームなんかないわよ」
「…………」
人はどこまで冷たい視線ができるのか実験したい人は、今すぐミス6の顔に目を向ければいい。実験はそれだけで完了するだろう。
「……つまり今日、私の二百勝記念日ができるってことね」
「はあ? まだミス6が勝つとは決まってないじゃない」
「この間みたいにミス7がちゃぶ台返ししないかぎりは私が勝つわよ。ゲームボードどこ?」
「えっと、さっきまでつまんなかったから一人人生ゲームやってて……そのあとどうしたっけ」
ミス6が部屋の隅に目を向けると、放り投げられた荷物と散らかった荷物に踏み潰されて、人生ゲームの残骸らしきものがみえる。
「……ミス7、ババ抜きしない?」
「ふっ、いいわよ。ババ抜きで私に勝てる人間なんかいないんだから!」
by社長主催の社内総動員ばばぬき大会、開催年以降毎年最下位。
「あ、ミス6……」
「トランプもないの?」
「やっぱりチョコ貰うわ。甘いもの食べたら私は無表情になるから」
「……ごめんなさい、地球の言葉で話してくれないかしら」
「ちゃんと日本語で話してるわよ。ミス6おばかさんなの?」
「甘いもの食べたらミス7は無表情になるって言われた気がしたから、何語かなって」
そう言いつつも取り出した板チョコをパキンと割って、半分ミス7に渡す。
(……あれ、そういえば)
『ねえねえ、今年最初にチョコあげる人は私だよね?』
『はあ? 何言ってんだよ、俺が絶対一番にもらうに決まってるだろ!』
『誰に最初のチョコあげるの!?』
クラスメートが昨日、そんなことを話しかけてきたような……だから一番最初の人はどうしよう、よっぽど特別な人じゃないと納得してもらえないだろうなとか色々考えていたけど。
(……いや、でもミス7って人じゃなくて宇宙人だし。あれ、でも『人』って漢字入ってるから宇宙人も人間?)
もっしもっしとチョコを食べて、ぽはぁ~と幸せそうに笑っているミス7を見る。つい数秒前に「甘いもの食べたら私は無表情になる」と言ってた人のような気がするのだが、やっぱりあれは日本語に似た別の言葉だったんだろう。
(……うん。まあいいか、別に)
ふっと笑って、ミス6もチョコレートを口に入れた。
「さ~て、甘いチョコも食べれたし、今の私はババ抜き無敵よ!」
「これビターチョコだけど」
「私苦いものは基本まずいと思うけど、甘いものは美味しいの。このチョコは美味しかったの。ってことは甘いのよ」
無茶苦茶な理論を展開するミス7。
「……まあ、確かに美味しかったわね」
「うん、今まで食べた中でいっちばん美味しかったー! なんでだろうね」
そう言ってあっけらかんと笑うミス7も、青くなくなった瞳を細めて笑うミス6も、親友と一緒に食べるチョコが最高に美味しいことを知らない。
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