社畜の死神と死にたい医者

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社畜の死神と死にたい医者

俺が医者になったのは、祖父の難病を経験し、少しでも医療の発展に役に立ちたい…。 と言う、考えからだったのだが…。 実際、医大を卒業してから勤務した先は、 夜間に居ない専門医の代わりに配属され、 アルコール中毒患者、熱を出した子供、ヤクザ同士の喧嘩による怪我、事故患者、心肺停止寸前の老人、救急隊員が連れてきた死人。 『目の前の患者を助ける』と言葉にして言えば格好良いし、尊敬される職だろうが…。 俺が勉強している部門の患者と、関わる事も無く、昼夜逆転した多忙な日常を送っていた。 「 志恩(しおん)先生がいる時は、どんな患者も来ても平気ね 」 「 夜は、彼にお任せってね 」 「( 全てを任せられても困るのだが… )」 夜間担当医師。 そんな決まりたくもない立場が決まったのは、勤め始めて4年。 それから、勤務場所や時間が変わることなくダラダラと仕事をして今に至る。 31歳にして彼女居ない歴年齢なんて、言えない程に、女性と関わる時間もなかった。 いや、実際には多少なりとあったのだが……。 女性は昼間に会いたいと言うが、昼間は夜勤明けで寝てるし、ダルくて出たくは無い。 夜は夜で、労働基準法なんて無い程に連勤が続いてる為にデートの時間なんて避ける訳が無かった。 そして最終的な言葉ば 時間が合わないなら付き合えない ゙と言われる始末。 好意を持つ前だから気にしないが、同じような台詞で離れていく者が多いから、もう仕方無いだろ、と言うしか無かった。 「 先生!!緊急の患者がやって来ます!救急車からではなく、個人の電話からです 」 「 容体は? 」 切羽詰まった看護師の言葉に、見ていたカルテを置いて立ち上がれば、白衣へと手を掛ける。 「 それが…。首吊りでの、未遂です… 」 言いづらそうにした言葉に、納得すれば診療室を出る。 「 嗚呼、すぐに準備してくれ。受け入れよう 」 「 はい!! 」 自殺患者、このご時世… かなり増えてるのは自覚してる。 特に、首吊り、水死、リストカットによる自傷、木炭による二酸化炭素中毒、そして飛び降りだ。 どれもこの仕事をしていれば経験してる為に、正直またかと思う。 十分後、個人の車で夜間救急の方へと運ばれた患者を見れば、見付けたのが遅かったのだろう、心臓は止まっていた。 「 ……家族の方を連れてきてくれ。母親が一緒だっただろう? 」 「 は、はい…… 」 母親の車で連れて来てもらったまだ中学生程の少年。 彼が、どれだけの気持ちで自殺に至った経由を知るのは医者の役目じゃない。 此処からは警察の役目だが、それを動かすのは母親次第となるだろう。 医療用手袋を外し、少しだけ溜息を吐いていれば俺以外、誰もいないはずなのに声が聞こえてきた。 「 荒瀬(あらせ) 祐希(ゆうき)。14歳。死人、首吊り…。母親の過剰なストーカー行為によって死ぬ事を決め、決行したのは0時11分… 」 「 君…何言って、というか…何処から入って 」 背後から聞こえた声に振り返れば、其処には腰程長い黒髪に、鴉のような羽を持つ、黒のドレスを身に着けた女性だった。 左手に持っていた分厚い本を閉じた彼女は、背丈よりも高い鎌を、この狭い部屋で振ろうとすれば、無意識のその細い手首を掴んでいた。 「 待て!一体何をするつもりだ!? 」 例え亡くなったとは言えど、患者に見ず知らずのコスプレ女に危害を加えるのは見てられない為に止めれば、鎌を持っていたその女は掴んだ手首へと視線を落とし、俺を見上げた。 「 …私を見れて、触れるの?よっぽど死の瀬戸際にいるんだ… 」 「 は? 」 視線が重なれば、彼女の瞳を見て驚いた。 まるで、亡くなった人間と同じく目に光を宿してはおらず、 目の下にある濃い隈や顔色の悪い青白い肌に、御世辞にも健康体とは言えなかったからだ。 意味深な言葉に困惑すれば、看護師は戻って来た。 「 先生、遺族の方をお連れしました 」 「 あ、嗚呼… 」 「 先生? 」 「 いや…なんでもない 」 掴んでいたはずの女の姿は消え、看護師は一体何を驚いてるのだろうか?なんて顔をするが、俺は疲れから夢を見てるのではないかと思った。 「 祐希……っ、……先生、心臓マッサージでもして、祐希を生き返らせてください!!私の…大事な、大事な家族なんです…!! 」 「 すみません……。例えしたところで息を吹き返す確率は… 」 この職をしてると、喜ばれることより、恨まれる事の方が遥かに多い。 ぶつける場所がなく、母親は手を貸さなかった医者へと暴言を吐いては、白衣を握り締めて涙を浮かべた。 「 人殺し!!他の病院なら、もっとしてくれたわよ!! 」 「 申し訳ございません…( 他の病院が受け入れを拒否したから、ここに来たのだろう… )」   首を吊って一時間以上経過して発見され、少年は呼吸をしてない。 そう言われたら、受け入れる病院は少ないが…この病院の医院長は少しでも患者を得る為に、大体の夜間患者は受け入れる。 それが全て、俺の責任になろうとも…。 「 ゴホッ……っ 」 「 祐希……?ママよ、私がわかる!? 」 「 息を吹き返した……? 」 「 先生!奇跡ですね!! 」 諦めムードの時、少年は自ら心臓を動かし始めて、呼吸をした。 なぜだ?完全に心臓は止まっていたはず…。 だが、生き返ったのならやることはただ一つ。 退院させてやる為に、最善のことを尽くすだけだ…。 例えそれが、彼の為にならなくとも…。
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