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「 ……そういうものか… 」
其れから3日で、少年は回復し退院したが
少年は嬉しそうな顔をすることなく、母親に連れられて病院を立ち去った。
けれどその2日後…。
少年は母親が運転していた車が横から来た車と衝突し、
交通事故によって3人の命が失われた。
被害者だった運転手も亡くなったのは、
病院内でも少しだけ噂となった。
俺はそれを聞いて、あの日見た鎌を持った女が度々、夢の中に出て来てた。
病院の屋上にやって来ては、深い溜息を吐いて朝の街を見下げる。
夜勤は9時迄の為に、それから終わってここに来たんだが、家に帰る気力もない。
「 5階建ての此処から落ちれば、生存確率は50%か。それも脚から落ちれば粉砕骨折で脊髄損傷により一生車椅子生活か寝たきり。頭から落ちたとしても…… 」
医者をしていれば、どのやり方が一番効率がよく、そして悪く、死んだ後の死体の状況すら分かるから気が進まない。
だが、なんとなく…。
何を思ったのかはわからないが、死ぬかも知れないという興奮から、アドレナリンが分泌されて、冷静な思考になってないのかも知れない。
俺は、柵を超えた向こうに立っていた。
「 なら前からではなく、背中から落ちるか… 」
脊髄損傷でも、寝たきりでも…。
この仕事を辞めるきっかけになればそれでいいし、死んだところで悲しむ身内はいないのだから、問題はない。
只、この病院で医者が自殺したと報道されるだけだが…
報道されたところで、ブラック企業にもいいところの此処が如何なろうが、どうでもいい。
「( あぁ、自殺者って…後の事はどうでもいいんだな… )」
此の世の全てを投げ捨てて、死のうとしてるのだから、後々の事を考える余裕はないんだ。
そういうものか…。
小さく心の中で笑っていれば、目の前にひらっと舞い落ちる黒い羽根に目を奪われた。
「 鴉の、羽根…? 」
鴉の鳴き声はしないが?と疑問になっていれば、音も無くあの女はまた現れた。
「 死ぬの? 」
「 …御前、死神か? 」
質問に質問を返し、会話が成立してないが、あの日の事や誰もいない場所に現れては消える姿を見て、非現実的な事を思った。
なんせ、今の彼女も…
屋上に影を写して無いのだから…。
俺の問い掛けに、相変わらず顔色の悪い女は、笑う事も驚く事もなく、無表情と言えるままに答えた。
「 そう、私は…死神のシヴァ 」
「 やっぱりな…。そんな気はしてた 」
「 私は答えた。次は貴方が答えて。死ぬの?言い換えようか。私に仕事を増やしてまで、死ぬつもりなの? 」
まるで、不出来な子供に教える様な言い方だった為に、余り人に関してキレることは無いのだが、今の言葉はカチンと来た。
「 仕事を増やす?何を言ってるんだ。君が死神なら…魂を回収するだけだろう 」
寧ろ今までは、他の医師の仕事まで押し付けられて、仕事をこなしていた側だから、
増やすと言われると癇に障る。
俺は出来るだけ、仕事を増やしたくはないからな。
「 死神の仕事を何も知らないから、そう言えるんだよ。魂を回収するだけが、死神の仕事じゃない 」
「 じゃ言うが、君も俺の仕事なんて何一つ知らないから自殺を止めるのだろう 」
「 知ってる。ずっと見てきたから 」
「 ……は? 」
突然のストーカー発言。
疑問を抱いて顔を向ければ、シヴァと名乗った彼女は長い髪を揺らし、横髪を耳へと掛け、視線を街へと向けた。
「 この街は、私の担当区域。そこで生まれた者達の一生を見届ける。そして…所属してる部署は…自殺課。自殺した子の魂を、回収するのが役割 」
「 自殺課…って、君は何歳なんだ 」
「 死神に、年齢を聞くもんじゃないよ 」
見た目は二十歳前後、それより若いかも知れないが、それでも人間の一生を見続ける事が出来るって事は、相当長生きしてなきゃ無理だろ。
それまで無表情だった彼女が、ほんの少しだけ笑った顔をした為に、視線を手摺へと落とす。
「 分かった。仕事を見てきたなら…俺が死にたくなる理由も分かるだろ。仕事を増やして悪いが…死なせてくれ 」
「 死に干渉はしないから、止めはしないけど…。だからといって頷けない。貴方が死のうとしてる理由は、しょうもないから 」
「 人が黙って聞いていれば、死にたい奴にしょうもないって言うのはどうなんだ!? 」
立派な理由が無いのは知ってる。
だが、魂を回収するだけの彼女には言われたくないと顔を横へと向ければ、其処には彼女の姿は無かった。
ハッとした時には、目の前の手摺りに立っていた彼女は、踵のある黒いブーツを俺の肩へと当てる。
「 なに、を…! 」
「 …私の仕事、教えてあげる 」
「 っ!! 」
死にたいと言ったが、死ぬ気は無かったかも知れない…。
握っていたはずの手は解き、背後から落下する感覚に身体の血の気は引いた。
これが、飛び降りるということ…。
ほんの僅か1秒程度が、余りにも永く感じるんだと思った…。
「 殺しはしないよ。少し…肉体と魂は離れるけど 」
手を伸ばした彼女が透けて見えて、ふっと自分の身体が屋上に倒れてるのを見かけた。
一体何が…どうなって?
地面に激突する寸前、
俺の目の前は光を失ったように暗くなった。
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