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第1話
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飯綱御影 @izuna_mkg_official
お知らせが遅くなりましたが本日から
先行受付してます!詳細はHPとブログにて。
今年もバースデー開催できるのは
皆さんのおかげです。
誕生日に皆さんとお会いできるのが楽しみです!! izunamikage.ktn.com/event/ #飯綱御影
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午後9時。
仕事や家事を終えた人々が自分の時間として、SNSが活発になる時刻。
「おい、いつまでやってんだ」
「う、うるさい!天下の飯綱御影に誤字があってたまるか!!」
「はいはい、ご苦労さん」
ソファに踏ん反り返って長い脚を組むのは、クツナエンターテイメントに所属している人気急上昇中の若手俳優:飯綱御影(公式プロフィール今年で23歳)だ。
183cmの長身でモデルからスタートした彼は、人間離れしたような色白と色素の薄さで、『白髪・銀髪の儚げ役を演じたら右に出るものはいない』と、舞台界隈を騒がせている人物である。
ローテーブルの上のタブレットを睨み付け文字の羅列を追っているのは社会人2年目の玖綱ひより。この事務所のマネージャーである。
ただいま絶賛、本人に代わってSNSの更新作業中なのだ。
「なんであんたが更新しないのよ!」
「俺の名前で運営スタッフのミスをカバーしてんだから当たり前だろ」
ついさっきちょっとしたミスがあり、以前から告知していたイベントの先行抽選の申込日の当日にアナウンスを、スタッフ経由で更新することを忘れていたらしい。
仕事終わりに偶然事務所に居合わせた御影が「俺が夜に告知しておきますよ」と、スタッフに評判の良い対応をかました。
その外面の良さの結果、丸投げされたわけである。
「あんたに何がわかる!デビュー前、私が手塩にかけてSNSに時間を費やしてきたと思ってるの」
「いや、マネージャーなら俺に手塩かけろよ」
「うるさい!おばあちゃんが作ったこの事務所から、どうやって若手俳優を輩出するか考えたことはあるのか!」
「な・い・ね」
クツナエンターテイメントは玖綱ひよりの祖母:キエが設立した、某歌手の個人事務所である。
5年前。突然彼から「俳優になる」という宣言を受けて、事務所は混乱を極めた。
当時大学生のひよりは、バイトとして売り出し前のミカゲのSNS戦略担当をすることになり、【イケメンすぎる○○!】な投稿をバズらせ、話題を集めた後、見事俳優街道を歩み始めたのだ。
ミカゲがデビューしてからのマネジメントは従兄妹と交代し、現在ひよりは新人女優のマネージャーを担当している。が、顔を合わせる度にこうしてパシリにされるのだ。
「ムカつく!顔が良いからって!」
「顔も、良いんだよ」
「そうですか!ごめんなさいね!?」
「相変わらずやかましいな。こっちは疲れてんだよ…」
「やーい稽古 乙」
「腹立つなぁ」
「はい!終わったから、今日の稽古写真でも載っけておやすみツイートしてね。じゃ」
「待て」
軽口を叩きつつ、ソファに座るミカゲに彼のタブレットを放ってひよりは立ち上がった。しかしそれは後ろの彼に腕を引っ張られかなわなくなる。
「今日のご褒美は?」
「ひっ…!」
顔良し、歌良し、演技良し、ダンス良し。
この四拍子が完璧に揃った飯綱御影の最大の武器は、どんな役にも『化ける』演技力である。ちなみにこれは役のみならず、彼の外面の分厚さにも起因するとひよりは思っている。
姿勢を崩され後ろに倒れたひよりは、そのままミカゲの上に抱き抱えられたような格好になる。そのまま耳元で囁く声は、先ほどとは打って変わって、イケボ特有の甘さとしおらしさが垣間見える(この場合聞こえる)声色をしている。
ひよりは引きつったような悲鳴を上げたものの、頭の隅で「こいつ、声優の仕事も増やそう」と冷静な自分がいた。
「おい、聞いてんのか」
「…ぐぅ…聞こえております」
なかなか反応を示さないひよりの腹に回った腕に力が込められる。ついでに頭上から顎で圧をかけられてご褒美を強請られているが、毎日こうだと正直キツい。
「……れ、冷蔵庫にお取り寄せ油揚げ届いてるからそれでいい?」
「はぁ?なんで最初に言わないんだ。早く出せ」
「……はい」
マネージャー歴2年目の私はワケあって元担当の人気俳優と暮らしています。
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