第2話

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 【イヅナツカイ】  それは古来からヒトならざるモノと契約を結び、その力を借りた生業で繁栄をもたらした術師である。  イヅナとは霊狐(レイコ)のこと。  狐は神格を高めるために下界で修行を積むという。  その期間にあたる霊狐と使役契約を結んだ家を『クダ持ち』と呼んだ。  彼らはイヅナの力を借りて、一族に繁栄をもたらしてきたのだ。  イヅナは一族に繁栄をもたらす代わりに、契約者を血で縛る。一度信仰を始めたら最後。盟約が守られる限りその繁栄は続くが、反故にされればその一族を滅ぼすのだ。  6年前、先代 飯綱(イヅナ)使い__玖綱キエが他界した。  生前生業にしていたのは小さな個人の芸能事務所の運営。所属歌手はすでに引退しており、その人物の著作物管理が主な仕事であったそう。  本家筋であるひよりはキエと同居時にずいぶん可愛がってもらっていたものだ。仕事に関してもほぼ書類整理や使用許可承諾で、手伝いと称して職場を遊び場のようにしていた。  飯綱使い、関係なくない?  当時ひよりはそう思っていた。  しかしキエの他界をきっかけに、過去に聞いた話が自分の身に降りかかってくるなんて、想像もしていなかったのだ。  キエの四十九日を終えると、それは前触れなく訪れた。  目が覚めると、身体中が傷だらけだった。  家族に話を聞くと、夜中に大声をあげたり、木に登ったり、屋根に飛び乗って駆け回ったりと、奇行のかぎりを尽くしたというらしい。  俗に言う『(キツネ)()き』だ。  玖綱家ではこういう現象が何世代かに一度起こるらしい。しかも今回はとびきり例外があった。  当時18歳だったひよりだけではなく、法事として玖綱家にやって来た従兄弟にあたる陽一も同じ現象が起きた。  その状態は1週間続き、7日目に二人はこう口にしたそうだ。 『(ツナ)を以て血の盟約に則りこれに従う。この者に(ツナ)を、我らに(ニエ)を』  こうして、ひよりと陽一はキエからイヅナを継承し『クダ持ち』となったのだ。  すでにわかることであるが、飯綱御影はひよりのイヅナであるミカゲが、ヒトの形を取った存在である。 「どうしてお父さんじゃなくて私だったの?」と聞いたことがある。ひよりは幼少期から霊感の自覚はなかったし、祖母曰くイヅナが人間を選ぶのだ。 「お前の気が、キエに一番近い」  とどのつまり、ミカゲの中でキエが忘れられない存在ということである。  ちなみに飯綱御影のおばあちゃん子設定は、ここから作り出した。  キエが生前担当していた歌手とはミカゲの別の姿であることも継承後に発覚した。イヅナの力を借りるために、芸能事務所という舞台を整えたに過ぎない。  本人は引退もしているので「お前の長い一生の一過性(ワガママ)なのかよ!」とひよりが文句を言えば、ミカゲは身体と尻尾を丸めて拗ねたようにこう言ったのだ。 「キエが……『御影は歌が上手だね』って言うから……」  うん???  耳を下げて頬を赤めながら宣った姿に、ひよりは文字通り目ん玉をひん剥いた。  このイヅナ、先代のキエにゾッコン(死語)で、彼女が死んでもなお未練タラタラなのである。
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