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女友達の美鈴
「二十九歳とさあ、三十歳の間には、深くて長い川が流れていると思うのよ」
まつりはいぶりがっこをかじりながら言う。
「そう? 私はまだまだ先のことだから、わかんないな」
まつりはいぶりがっこを咀嚼するのをやめて、美鈴を睨む。
そうなのだ。まつりと美鈴は大学の同級生ではあるけれど、まつりは一旦他大の法学部に二年通ってから、肌が合わなくて美大を受験しなおしているので、美鈴よりも二年お姉さんなのだ。
大学卒業後、美鈴はあっさりパッケージデザインの会社に入ったのに、まつりは漫画家として遅いデビューを果たした。
いまどき、丸ペン一本で、パソコンもアシスタントもトーンもつかわないまつりの漫画は案外人気があって、連続テレビドラマ化された作品が二本と、思いもかけず順調なのだが、それもいつまで続くかわからない。
「三十路になってから泣きつくなよ?」
まつりはボストンクーラーを苦々しい顔で口に含んだが、美鈴のほうは
「大丈夫。たぶん。私、まつりお姉さんと違って、要領のよいタイプなので」
と笑った。
美鈴には、二年前から付き合っている彼氏がいる。イケメンの。イケメンの!
しまった。憎しみ余って二回言ってしまった。
どうせ顔で選んだら長続きしないだろうと高を括っていたら、案外うまくやっているらしい。イケメンと。
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