猫はニャーと鳴く

嘆き

　オレ。ブタ。豆ブタってやつだ。よろしくな。名前？　どうでも良いじゃねぇか、そんなもん。好きに呼ばせておけばいいだよ。それが何か？

　何でもない？　じゃあ聞くなよ。

　まぁいい。話は変わるんだが、最近さ。ご主人様が映画を見てたんで、気まぐれにオレも見たんだ。タイトルは……　何だったかな。赤いブタだったかな？

　ん？　紅だったか。そうか。まぁどっちでもいいんだがな。

　よくない？　良いんだよ。本題はそこじゃないから。それよりお前。この映画見たことあんの？

　あるんだ。へぇ。

　ん？　あぁ本題ね。その映画で有名な名台詞があるじゃん？

　そう。それ『飛べないブタはただの豚だ』ってやつな。あれ聞いた時、思わず泣いちまってな。

　泣くような場面かだって？　泣くだろ普通。

　え！　泣かない？　嘘だろ？　だってお前……　そうかネコのお前には分からないか。

　しかし、なんだろうな？　お前たちネコって羨ましい生き物だよな？

　え？　どこが羨ましいのかだって？　だってよぉ。お前らネコってネズミを捕まえるぐらいしか人間に有益じゃないんだぜ？　それだってネズミを捕まえるような境遇にあるやつなんて最近じゃほとんどいないって話だし。

　ん？　話を本題に戻せって？　あぁそうだな。本題なんだがな。オレたちブタってお前たちネコよりよっぽど人間に有益なんだぜ？　例えば家畜として良し。排泄物を処理させて良し。食料にして良し。実験動物にして良し。これだけ人間に尽くしてんのに、ブタは侮蔑を表す言葉なんだぜ？　おかしいと思わねぇか？

　だろ？　おかしいよな？　それによ。空飛ぶブタって人間にとっては迷惑この上ない存在だと思わねぇ？　管理しづらいっての。ブタは飛ばないほうが価値があるっての。飛べないブタはただのブタ。大いに結構じゃねぇか！　何の問題があるってんだ！

　はぁ。良いなぁネコ。ネコは猫ってだけで価値があるんだぜ？　空を飛ぼうが飛ばなかろうが、それで猫の価値が損なわれるわけじゃあねぇんだぜ？　理不尽だと思わねぇ？

　あ～あ。何でオレ。ブタなんだろうな。ネコ。ねこ。猫になりてぇなぁ。