ひとりだけ

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ひとりだけ

氷点下で咲くような美しい花 彼女を知る人は口を揃えて言う 色白で切れ長の目 整った鼻筋 さくらんぼのように熟れた紅い唇 けれど 1度も笑ったところは見たことがない きっと感情がないんだ 本当の正体は雪女に違いない 彼女への羨望と嫉妬は 日増しに高ぶり 巨大な悪意が 今にも彼女を押し潰しそうだ でも僕は知ってる 彼女は感情がないわけでも ましてや雪女でもない 彼女はうまく表情を作れないだけだ 心の中では いつも表現できないことに悩んでいた なんで知ってるかって? 僕は彼女の唯一の幼馴染み 小さい頃から彼女のことは知っている 笑おうと口の両端に指を入れて 上に引っ張りあげていたこと 自分の腕をつねってわざと涙を流したこと ホラー映画を観て目だけ泳いでいたこと 「普通になりたい」って 僕によく溢してる だけど誰にも教えてあげない 彼女はこれからも無表情で よくわからない人でいい 時々見せるその物憂げな瞳は 僕だけのものだから 彼女の本音なんて 誰も気づかないでくれ
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