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「もっと……」
「うん」
「え、っと……ごめん。よく分からない」
暫し考えてみたものの結局答えを導き出せず、泉夏は済まなそうな面持ちとなる。
「もっとって、どんな時?」
ストレートに疑問をぶつけられて、秀王はいよいよ困り果ててしまう。
『ああ、その事』ぐらいに、さらりと流して終わりにして欲しかった。
こうなってくると話が違ってくる。
自分から話題を振ってしまったようなものだが、今更の後悔が襲う。
本当に分からなくて、訊いてきてるのだろうか。
彼女を疑うつもりは毛頭ないが、今ばかりはそんな疑問が頭を過ってしまう。
けれど残念ながら、申し訳なさそうなその顔は嘘を吐いていなかった。
「必要以上に、真剣に受け取らないで欲しいんだけど」
「うん」
「なんて言うか……極々世間一般な事として、頭を掠めただけなんだ」
じっとこちらを窺っている恋人の目に、秀王は尻込みする。
改めて声にする事で、多分お互い気まずい思いをしてしまう。
それを分かっているだけに、あと少しの勇気が出ない。
厳密には、自分はそうは思ってはいない。
問題は彼女の方だった。
彼女の本音だけは分かりようがない。
それが往生際悪く、ここまで躊躇させてしまう原因だった。
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