2階の女性たち

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2階の女性たち

階段の方から音がする。 2階から誰かが降りてきたようだ。 誰なのかすぐに分かる。 僕は料理をしながら、階段の方をチラッと見る。 ここで暮らしている女性2人だ。 彼女らは、僕の方へ近づいてくる。 「お疲れ様です」 女性2人の内の1人が、ゆっくりとした口調で僕に声をかけた。 僕は料理の盛り付けをしているところだった。 なので、女性と目をあわせずに 「あっ。お疲れ様です。すいません。今キッチン使わせてもらってます。もうすぐしたら片付けますので」 と言った。 どっちが声をかけているかは想定出来た。 このキッチンで、いつも料理をしている方だ。 もう一人は、いつも味見をしている。 「いいですよ。私たち、まだ大丈夫なんで。終わったら言って下さい」 と返答してくれた。 目をあわせていないので、どんな表情をしているのか分からない。 「ありがとうございます」 僕は、盛り付けしながらそう言った。 最後まで、目をあわせなかった。 盛り付けを終えて、良一を見ると、女性2人が、良一の向かい側に座っていた。 良一は2人を見ている。 本は閉じられ、テーブルに置かれていた。 先程、僕に話しかけてきたと思われる女性が、その本を見て、良一に話しかけている。 何かムッとした。 「良一おまたせ。出来たよ」 僕は、大きな口調でそう言った。 良一と女性との会話を遮りたいためだ。 僕は、良一のために作った料理を配膳する。 もちろん、僕の分も含めてだ。 「キッチン空きました。ありがとうございます」 僕は女性2人にそう伝えた。 素っ気ない態度を見せたかもしれない。 嫌な思いをさせたかもしれない。 愚痴を言われているかもしれない。 それでも構わない。 僕は彼女たちを何処かへ追いやり、良一と一緒にいたかった。 良一との関係が、このままずっと続けばいいなと……。 ただそれだけだった。
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