〈ミモザ*私の結婚〉

20/43
525人が本棚に入れています
本棚に追加
/149ページ
 *  「看護師と会話ができるまでに、症状は落ち着いているそうです」  病棟の受付でそう教えられた晶は、ほっと胸をなでおろし、祖母・佐久本忍(さくもとしのぶ)の待つ病室へと向かう。晶の背後には、居心地悪そうな顔をした慧の姿があった。 「俺が行って、驚かれないか?」 「大丈夫ですよ。仕事相手だってちゃんと説明しますから」  千葉の総合病院まで送ってもらっておきながら、このまま返すわけにはいかない。  忍の元気な姿を確認したら、改めてお礼をしたい。 「すみません。もう少しだけ、つきあってください」  晶が頼むと、慧は黙って頷いた。  たどり着いた忍の病室は、扉が開いたままになっている。  晶がそっと顔を覗かすと、ベッドに横たわる忍と、忍に付き添う看護師の姿が目に入った。 「晶は、おばあちゃん思いで、やさしい子なの」 「いいお孫さんをお持ちで良かったですね」  忍の話し声が聞こえ、晶と慧は目を合わせた。 「だから、あの子を残して逝くことが何より辛いの。たった二人きりの家族でしょう。一人になったら、あの子どうなっちゃうのかしらって。仕事が忙しくて恋人もいないみたいなの。きっとこのままじゃ、結婚も無理ね」 「大丈夫ですよ。私たちの時代とは違って、最近は結婚しない生き方もありますから」  忍を励ますように、女性の看護師は優しく言った。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!