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「看護師と会話ができるまでに、症状は落ち着いているそうです」
病棟の受付でそう教えられた晶は、ほっと胸をなでおろし、祖母・佐久本忍の待つ病室へと向かう。晶の背後には、居心地悪そうな顔をした慧の姿があった。
「俺が行って、驚かれないか?」
「大丈夫ですよ。仕事相手だってちゃんと説明しますから」
千葉の総合病院まで送ってもらっておきながら、このまま返すわけにはいかない。
忍の元気な姿を確認したら、改めてお礼をしたい。
「すみません。もう少しだけ、つきあってください」
晶が頼むと、慧は黙って頷いた。
たどり着いた忍の病室は、扉が開いたままになっている。
晶がそっと顔を覗かすと、ベッドに横たわる忍と、忍に付き添う看護師の姿が目に入った。
「晶は、おばあちゃん思いで、やさしい子なの」
「いいお孫さんをお持ちで良かったですね」
忍の話し声が聞こえ、晶と慧は目を合わせた。
「だから、あの子を残して逝くことが何より辛いの。たった二人きりの家族でしょう。一人になったら、あの子どうなっちゃうのかしらって。仕事が忙しくて恋人もいないみたいなの。きっとこのままじゃ、結婚も無理ね」
「大丈夫ですよ。私たちの時代とは違って、最近は結婚しない生き方もありますから」
忍を励ますように、女性の看護師は優しく言った。
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