〈ミモザ*私の結婚〉

19/43
559人が本棚に入れています
本棚に追加
/149ページ
「一人で大丈夫か?」    慧から訊ねられ、晶の目は不自然に泳いでしまう。 「だ、大丈夫です」 「やっぱり、俺も付き添うよ。病院はどこ?」  晶の不安を察したように、慧がタクシーに乗り込んできた。 「えっ、千葉。君、千葉から通ってるのか」 「柾木さん、お仕事は?」 「気にするな」  慧はタクシーの運転手に「出してください」と告げる。 「ご迷惑をおかけして、す、すみません」  晶の声は明らかに上ずっていた。 「試してもいい?」  慧がぶっきらぼうに言う。 「試す?」 「今、手を繋いでいいかって聞いてるんだけど」 「は、はい」  後部座席のシートの上で、二人の手がおずおずと繋がれる。  気が動転していたせいで流されてしまったが、どうして今、試さなければならないのだ。  不審に思った晶は、そっと慧の横顔を眺める。 「落ち着いた?」 「ええ、少しは」  もしかして――私の手が震えているのに気づいた?  落ち着かせようとして、手を繋いでくれた?  まさか、彼も動揺している?  思考を巡らすうちに、晶は平静を取り戻していく。 「祖母は心臓が悪くて。手術をしなければ余命一年だと告げられました」 「そうか。大変だな。でもきっとうまくいく」  繋いだ手に、少しだけ力が込められた。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!