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「一人で大丈夫か?」
慧から訊ねられ、晶の目は不自然に泳いでしまう。
「だ、大丈夫です」
「やっぱり、俺も付き添うよ。病院はどこ?」
晶の不安を察したように、慧がタクシーに乗り込んできた。
「えっ、千葉。君、千葉から通ってるのか」
「柾木さん、お仕事は?」
「気にするな」
慧はタクシーの運転手に「出してください」と告げる。
「ご迷惑をおかけして、す、すみません」
晶の声は明らかに上ずっていた。
「試してもいい?」
慧がぶっきらぼうに言う。
「試す?」
「今、手を繋いでいいかって聞いてるんだけど」
「は、はい」
後部座席のシートの上で、二人の手がおずおずと繋がれる。
気が動転していたせいで流されてしまったが、どうして今、試さなければならないのだ。
不審に思った晶は、そっと慧の横顔を眺める。
「落ち着いた?」
「ええ、少しは」
もしかして――私の手が震えているのに気づいた?
落ち着かせようとして、手を繋いでくれた?
まさか、彼も動揺している?
思考を巡らすうちに、晶は平静を取り戻していく。
「祖母は心臓が悪くて。手術をしなければ余命一年だと告げられました」
「そうか。大変だな。でもきっとうまくいく」
繋いだ手に、少しだけ力が込められた。
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