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〈プロローグ〉
いよいよ、クライマックスが訪れる。
佐久本晶は覚悟を決めると、お気に入りの恋愛ドラマのヒロインになったつもりで微笑んだ。ステンドグラスから降り注ぐ光が、純白のドレスを輝かせている。背中にかかった編みおろしヘアには、小花が散らされていた。
幸せを絵に描いたような新婦の隣に立つのは、すらりとした新郎。
一段高くなった祭壇に立つ二人へと、ゲストたちの視線は集中していた。
「私、柾木慧は、晶さんを愛し、どんなときも尊重し、彼女を支え共に生きていくことを誓います」
人前式とはいえ、こんなところで堂々と嘘をつくなんて。
花嫁姿の晶は、タキシードに身を包む端正な顔立ちの花婿、柾木慧を見上げる。
きっと晶と同じように、慧も誰かを演じているのだろう。先月出会ったばかりのよく知らない男性ではあるが、彼が自分を愛していないことだけははっきりと分かっていた。
慧が、早くしろ、と言いたげに顎をしゃくる。
「あっ、ああ。私、佐久本晶は、慧さんをあ……愛し、彼を尊重して、それからええと、彼を支えて、共に生きていくことを誓います」
誓いの言葉をなんとか最後まで言えた晶は、安堵して胸を押さえた。
慧は軽く深呼吸をすると、わずかに手を震わせながら、晶の薬指に指輪をはめる。彼は訳あって、女性の体に触れるのが苦手だ。
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