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 リビングにシュンが足を踏み入れると、健少年はテーブルの上に広げていた白いノートをぱたりと閉じた。  日記かなにか、書いているのだろうか。  シュンはぼんやりそんなことを思った。  「晩飯、弁当かなにか買ってきましょうか。それとも、カップ麺でもいいし。」  健少年は、線の細い右手で頭をかき、ちょっと照れくさそうに笑いながら、俺は食わなくても平気っちゃ平気ですけどね。よくめんどくさくて飯抜いちゃうんですよね。と言った。  俺もなんだよねー、カップ麺のお湯沸かすのさえめんどくさくて飯抜いたりする。でも、今は結構腹減ったなー。  シュンはそう答えようとしたし、そう答えたつもりだった。  しかし、唇がなぜだか彼を裏切った。  「だめだよ! 飯は食わないと!」  叱りつける、というにしては幾分ヒステリックすぎる声が喉から飛び出す。  驚いたのは健もだし、シュンもだった。その場の空気が凍る。  シュンは自分が口にした言葉を反芻し、焦って言をついだ。  「健くんはちゃんと食べないと。成長期なんだから。」  声が不安定に揺れている。シュンは自分の喉を手のひらで抑え込んだ。  健が心配そうにシュンを見ていた。  「……シュンさん……?」  ごめん、と、シュンは詫びた。誰になにを詫びているのか、自分でも分からなくなっていた。でも、とにかく、でかい声出してごめん、と。  すると健は、シュンの表情を伺いながら、慎重に唇を笑わせた。  その表情が、これまでの彼の健康的で無邪気な印象とあまりにも異なっていたので、シュンは少し驚いた。  彼の表情は、よく言えば大人びていて、悪く言えばやや病的だった。  「そうですね。身長、ここで止まったら嫌だし。なに食べましょうか。」  健が身長を測るみたいに自分の頭に手のひらを乗せ、今度は掛け値なしに無邪気に、にっと笑う。健少年の身長は、シュンより随分と低かったが、それはシュンがでかいだけで、15歳の少年としては、多分標準くらいだろうと思われた。  飯を食わなくても、背が伸びるやつは伸びる。  シュンはそのことを、身を持って知っていたけれど、黙って笑うにとどめた。  「美沙子が冷凍のうどんストックしてるからそれ食おうか。肉とか野菜も冷凍してあるはずだし。」  「へぇ。姉ちゃんって、案外マメなんですね。」  「実家いた頃は、そうでもなかったの?」  「どうだろう。俺、あんまり覚えてないんですよ。ガキだったから。」  今でも十分幼い容姿の健少年は、身軽な動作で台所に行き、ぱかりと冷凍庫のドアを開けた。    
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