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背中にぶつかってきたなにかは、温かかった。シュンの腰には、骨のまだ細い両腕がきつく回される。
健少年の行動の真意が読めず、シュンは硬直した。少しでも動けば、それでこの少年を傷つけてしまうのではないかと思って。
これまでこうやって引き止められたことが、ないわけではなかった。子供みたいな男は今の健少年と寸分変わらない仕草でシュンを引きとめたし、他にも何人かの男や女がシュンの腰に腕を回した。
はじめてこうされたとき、つまりは子供みたいな男に、ということだけれど、シュンはしがみついてくる腕を振り払えず、彼の部屋に残った。その後結局は、あのときとっとと部屋を出ていればよかった、という事態まで落ちていったから、それ以来シュンは、どう引き止められてもその腕に従うことはなくなった。
だから今だって、健少年の腕を振り払って部屋を出ていくのが正解のはずだ。
それなのに、身体が動かない。金縛りされたみたいに、その場に釘付けにされた。
「行かないでください。」
シュンの背中に顔を押し付けた健少年が、呻くように言った。背中にかかる息は、熱かった。
「……なんで。」
シュンはそう問い返した。それ以外のリアクションが思いつけなかった。
なんで、俺なんかを引きとめる。親切でシュンの身体を温めようとしてくれた健少年。その身体を、無情に組み敷いて犯したレイプ犯。そんな俺を、どうして引き止める。
「……だって、ここは、シュンさんと姉ちゃんの家でしょう?」
健少年の声は細く、背中に押し付けられた唇も僅かにしか動かなかった。
「……そんなことないよ。」
ようやくシュンは、本当のことを話す気になった。だって、そんな誤解で健少年が胸を痛めているのだとしたら、それはあまりに哀れだ。
「俺は、ただのヒモだから。美沙子の恋人でさえないし、この部屋の主人でもないよ。ここは、きみのお姉さん一人の部屋だ。」
数秒の沈黙があった。シュンは、腰に回っている腕が解かれるのを、じっと待っていた。
けれど、その腕は解けるどころか、ぐっと力を増した。
「知ってます。」
たしかに健少年はそう言った。
シュンは、彼の言葉の意味を飲み込むことができず、え、と間抜けな声を出して背後を振り向いた。
ただでさえ発育途上の身体をぐっと曲げるようにしてシュンの腰を抱いた少年は、静かに顔を上げ、シュンの目を見返した。
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