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冷たいほうじ茶ラテをカイロで覆って温める。深呼吸をしたら、空に白息が浮かび上がった。
「飲めるようになったのか、凄いな。昔はカフェオレすら苦いって言って飲めなかったろ」
「そんな時期もあったよね。懐かしい」
あの頃は、親がコーヒーを飲んでいる姿を見つけては、興味本位で一口貰って、毎回苦いって半泣きになってたっけ。
あの頃はコーヒーを美味しそうに飲む大人達が羨ましくて、密かにコーヒーを克服しようと努力していた。まあ、毎回失敗に終わっていたけど。
「なあ優衣」
「ん?」
突然、隣を歩いていた怜央くんが立ち止まった。思い出に蓋をして、少し振り返る。
怜央くんは今まで一度も見たことがないくらい神妙な面持ちで佇んでいて、何を言われるのかと背中に緊張が走る。
「あのさ。……いや、なんでもない」
なんでもない訳がない表情と間だったのに、なんでもないと呟いて先を行った怜央くんは、私の手の中からほうじ茶ラテを奪っていった。
思わせぶりの態度に少しイラッとして、すぐさま駆け足で怜央くんの隣に立つ。
「言ってよ。気になるじゃん」
「そんな背低かったかなって思ってさ」
「ひどっ、悩んでるのに。言わないでよそんなこと」
「言えって言ったの優衣じゃん」
私が吹き出して、怜央くんも吹き出す。私達は時間を忘れて破顔した。この通りを抜ければもう家だ。
「今度俺と食べに行くか、肉まん」
「……自分が食べたいだけでしょ? 返してよ、ほうじ茶ラテ」
「冷たいだろ。家着くまで代わりに持つ」
月明かりに照らされて、コンクリートに私達の影が浮かび上がる。大きさが大して変わらない二つの影に、どこか胸が高鳴った。
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