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「優衣怪我は? 痛いとこないか?」
「う、うん」
「良かった……。マジ焦った……」
肩を掴まれ、上から体重をかけられる。怜央くんの瞳の奥に映る自分と目が合うくらいの近距離で、瞳と瞳が交差する。体が熱くて限界なのに、吸い込まれたように目を逸らせない。
「俺のことはスルーなんだ。へー、そうなんだ」
「そうだな、俺としたことが大事なこと確認し忘れてたわ。聖に酷いことされてないか?」
「俺をなんだと思ってるの」
近い。いい匂い。コート着てる。目が茶色だ。息荒い、走って来てくれたんだ。
二人の会話は右から左に流れて、まとまりのない飛び飛びの邪心ばかりが頭を占拠する。
「あと手、早く離してあげたら? 優衣ちゃんが重いって顔してる」
「そんな体重かけてないつもりだったけど、ごめん重かったか? あれ、なんか優衣顔赤くね?」
前髪をかき上げられ、顔を覗き込まれる。心臓が破裂寸前で、どこからか警告音が聞こえてくる。
「寒くて凍えてたんだよ。誰かさんが早く迎えに来ないから。ね、優衣ちゃん」
「ウン、ソウダネ」
横から聖くんに引き寄せられて、怜央くんと距離が空く。一気に酸素を取り入れた反動で鼻がひくつきそうになって、口の辺りを手で覆った。
「それは悪かったな。これでも必死に飛ばしてきたんだよ。てか、二人ってそんな仲良かったっけ?」
「俺ら昔から仲良いよ。ね、優衣ちゃん」
「ウン、ナカイイヨ」
「ふはっ。……優衣ちゃん面白すぎ」
極限状態の私を嘲笑って、聖くんは怜央くんに聞こえないような小さな声で耳元で囁く。
「ふーん。帰るぞ優衣」
怜央くんは私のリュックサックを肩にかけると、聖くんを私から引き剥がし、強引に私の手を引いた。半ば引きづられるように歩き出す。
「え、あ、聖くんありがとう。今度お金返すね」
振り返って手を振ると、聖くんが何故か楽しげに手を振っていた。
聖くんが見えなくなると、怜央くんは徐々にペースを落としていって、コンビニが見えなくなると手を離して隣に並んだ。
「優衣寒い? カイロあるけどいる?」
「いらない。もう持ってる」
「アホ、一個じゃ足りないだろ。二個持っとけ」
軽い力で投げられたカイロをキャッチする。ずっとポケットの中に入っていたからか、怜央くんのカイロは私のカイロよりも温かった。
「何貰ったの」
「これ? ほうじ茶ラテ。美味しいんだよ」
「苦いの苦手じゃなかったっけ?」
「苦手だけど、これは飲める」
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